CEO Comments CEOコメント

林 郁

代表取締役 兼
社長執行役員グループCEO

CEO Comment Vol.78 『2023.3月期決算サマリー[IFRS](連結)』

〜テクノロジーの激変期に対応した、5カ年中期経営計画【Recurring Shift】を始動〜

 本日の取締役会の承認を受けて、2023年3月期決算短信[IFRS]を発表いたしました。

Ⅰ. 2023.3月期 決算サマリー

 2023.3月期の連結経営成績は、収益30,070百万円(前期比42,884百万円減、同58.8%減)、税引前損失13,881百万円(前期は45,393百万円の利益)となりました。一部投資先の公正価値評価額が大幅に減少したことにより、インキュベーションテクノロジー(以下、IT)事業および事業セグメントに属していない全社費用で評価損を計上したことにより、減収減益となりました。

 一方で、フィナンシャルテクノロジー(以下、FT)事業、マーケティングテクノロジー(以下、MT)事業、ロングタームインキュベーション(以下、LTI)事業は、順調に推移しております。FTでは、対面領域におけるアライアンス戦略が功を奏し決済取扱高は前期比19%増、MTでは、広告市場全体が伸び悩むなか、主力である金融領域のデジタル広告取扱高は前期比15%増加しました。また、FT・MTともにトレンド転換した下期(10月-3月)の税引前利益は、FT22%増益、MT58%増益(いずれも一過性損益を除く)と伸長する結果となりました。LTIでは、外食需要の回復等を受け、グループ会社であるカカクコム社の業績が増加したことに加えて、3Qに関係会社株式を売却したことによる売却益を計上しました。

 ITにおいては、特定の投資先における評価損により業績が大きな影響を受けたものの、アーリーステージを中心に分散されたポートフォリオにより投資残高は安定しており、シリコンバレーバンク破綻に端を発した金融不安による影響は限定的となっております。

 以下が2023.3月期の「決算ハイライト」のスライドです。

 また、以下が2021年より掲げている【DG FinTech Shift】戦略の進捗状況「当期末現在での戦略事業領域と戦略パートナーの整理」のスライドとなります。

 詳細は、末尾にある「2023年3月期決算および中期経営計画説明会動画」の本決算パートをご覧ください。

Ⅱ. 新中期経営計画【Recurring Shift】の開始

〜日本最大級の3つのグループアセットを結集し、次世代ビジネスを創造する〜

 1995年の創業以来、28年間インターネット業界の変遷を見、体現してきました。web3(Blockchain)や Gen AI(生成人工知能)を含む次世代AIといった、新しいTechnologyの津波は、かつてない規模で“ITビジネスのエコシステム”を変えるように感じています。新中期経営計画策定に向けて、現在の事業環境を「新中期経営計画策定にあたり/はじめに」のスライドで表現してみました。ご一読ください。

 「DGグループのコンテクストデザインと社会実装の歴史」を以下スライドにまとめました。28年の歴史はまさに、インターネットの歴史そのものといっても過言ではないと思っています。振り返ると7〜8年周期にテクノロジーの波が起きてきましたが、繰り返しになりますが、今回の波はかつてないほど大きな変化をもたらすと確信しています。

(1)新中期経営計画の定量目標(KPI)とコンセプトの設定

 2028.3月期に目指す新中期経営計画の定量目標(KPI)を策定しました。税引前利益成長率(投資事業及びカカクコム持分法損益利益除く)は5年CAGRで20%以上、決済取扱高は2023.3期実績の5兆円の約3倍である15兆円以上を目指します。また、保有株式の売却を推進することで5年累計で300億円以上の投資EXIT収入を目指し、これで生まれるキャッシュを元にした新規事業開発や追加の株主還元についても検討していきます。株主還元は5年累計配当総額100億円以上を目指します。

 次の5カ年においても、2つの事業領域<【Ⅰ】決済プラットフォームの継続的な育成><【Ⅱ】非連続事業の育成>は継続します。今回の中計では【Ⅱ】の非連続事業の育成に関してあまり触れておりませんが、web3の社会実装も着実に進んでおり、新中期経営計画の初年度の今年は、具体的な戦略プロジェクト群の発表を予定しております。ご期待ください。

 以下のスライドで記している、DGグループが内包する日本最大級の3つのアセットを有機的に組み合わせ、テクノロジーの激変期に対応する弾力性・拡張性のある戦略を設計しました。

 上記の国内最大級の事業アセットや、国内インターネットビジネス、グローバルインターネットビジネスを決済プラットフォームに結集し、更なる成長を実現する【DG FinTech Shift】の進化系である【Recurring Shift】を当中計のキーワードとして設定します。グループシナジー × プラットフォーム高度化 × グローバルアライアンスという3つの要素を通して、当中計の達成と”NEW CONTEXT”の社会実装を実現していきます。以下「新中期経営計画のコンセプトとキーワード」のスライドをご覧ください。

(2)グループシナジー – カカクコム社との取り組み

 DGは2002年にカカクコム社に出資をしてから、決済、マーケティング、スタートアップ支援など多くの協業を通じ、共に成長してまいりました。今後は、日本最大級の決済プラットフォームや先端技術への知見を有するDGグループと日本最大級のバーティカルメディア群を有するカカクコム社が、取り組みをより強め、フィンテック事業の共同開発や次世代テクノロジーを融合したGen AI・web3時代のスマートコマースを実現し、グループシナジーを最大化していきます。以下「カカクコムグループとの取り組み」のスライドをご覧ください。

 カカクコム社がバーティカルに展開するメディアの産業別の国内市場規模は、「価格.com」が扱うEC産業:21兆円、「食べログ」が扱う外食産業:20兆円、「Time Design」など旅行・移動系メディアが扱う旅行・観光産業:22兆円など巨大な市場であり、キャッシュレス化やFintechを始め次世代技術の実装などDXが遅れている、もしくはよりDX化をできる余地が残されている産業です。

 例えば現在、生活者がオンラインで買い物をする際、ECサイト毎に煩わしいパスワード入力や決済情報入力を求められますが、次世代技術を使うことでセキュアに、かつ、パスワードレス認証とワンクリック決済でユーザー利便性を高める新しいスマートEC(フリクションレスコマース)を実現していきます。そして、これまでユーザーの送客データを中心に保有していたカカクコム社は、購買データの活用が可能になり、データを解析することでユーザーの利便性をより高めます。これらを通じ、EC事業者の売り上げ成長に貢献し、DXやキャッシュレス化の拡大につなげます。さらに、この技術を他メディアへの拡張性をもつものとし、DGグループのBI.Garageが核となるメディアコンソーシアムに参画している30社、150媒体にも共通IDのような機能を作り出し、広告に次ぐ第2・第3の事業収益を生む可能性を感じています。

 また、食べログオーダーにて店舗決済の導入は前期から取り組み始めていますが、今後はそれらの拡大に加え、食べログ予約の事前決済という領域も注力していきます。Gen AIにより、現在の場所、人数やジャンル等でレストランを検索する時代から、「明日の19時に3人で入れる渋谷の焼肉屋さんを教えて」のような会話が中心となる探し方が生まれ、レストラン検索や予約のあり方が大きく変わります。また、日本語以外のあらゆる外国語での会話を可能とすることで、インバウンド決済もターゲットにしています。以下が日本初のChatGPTプラグインが実装されたデモになります。近い未来の検索のあり方を想像して見ていただけると幸いです。

 旅行検索のあり方も、細かな目的意識を持たずとも「来週末に東京から日帰りで家族4人でいける温泉宿を探して」のようなホテルのコンシェルジュと話しているような新しい体験がはじまります。「Time Design」で提供しているダイナミックパッケージの入り口の検索は、人間にとってより直感的で会話ベースで旅程が組まれ、予約、決済まで完結する新しいテクノロジー体験の時代が始まります。

 また、B2B領域では、食べログが飲食店に無料で提供している「食べログ仕入れ」というサービスに新しいテクノロジーを入れ、飲食業界の方々がAIによる売り上げ予測を元に商品を発注することや、それをスマートコントラクトベースで行うことで、グループをあげた事業の成長のみならず、業界の発展に貢献していきたいと思います。

 これらの多角的な取り組みを通じ、5年後には新中期経営計画の定量目標(KPI)である決済取扱高15兆円の10%程度をカカクコム社との共同事業で占めるまで拡大することを目指します。

(3)決済プラットフォームの高度化と安定稼働の実現

 DGグループの決済プラットフォームは、決済取扱高5.3兆円という日本最大級の規模になり国の重要インフラ指定企業に成長しました。大きな特徴は、システムの高度化と安定稼働の実現です。オラクルの最先端の決済プラットフォームのリアルタイムツイン(双方向同期)化による安定性と冗長化により、昨年度ベースでシステム稼働率は99.99994%、ハードウェア障害による停止時間はわずか20秒でした。既にグループ2社の決済システムは統合を終え、今後は資本業務提携先の東芝テックとのセンター統合に着手する予定です。そして、日本を代表するセキュアな決済プラットフォームのキープレイヤーとして、テクノロジーを強みにしながら業界に貢献していきます。

 また、アフターコロナで、一気に加速するさまざまな領域のDXや、B2B領域でのDXにも対応しながら、世界中のペイメントプレイヤーと協業し、【Global Payment Orchestration】を強化し、マルチカレンシー、マルチペイメント、クロスボーダーEC市場の開拓等のグローバルなDXをテクノロジーでサポートしていきます。インドでのオフショア開発やニアショア開発でエンジニアリソースを強化・拡大し、更なる安定稼働と高性能なテクノロジーの発展を実現していきます。

(4)グローバルアライアンス – グローバル投資と戦略的R&D

 創業以来、数多くのスタートアップ投資や支援を通じ、日本はもとより、北米、アジア、欧州に独自のディールソースを築いてきました。東京とシリコンバレーをベースとするネットワークを皮切りに、アジア、ヨーロッパへ【グローバルインキュベーションストリーム】と呼ぶ独自のネットワークを拡大します。東京では渋谷パルコDGビルにインキュベーションセンターやカンファレンスホールを備え、サンフランシスコでは10年前にインキュベンショーンセンター「DG717」をオープンし、日本とサンフランシスコの架け橋として機能してきました。2005年から私と共同創業者の伊藤穰一をホストとして始めたTHE NEW CONTEXT CONFERENCEも24回を数え、2010年から始めたOpen Network Labでは140社以上を採択し、日本のスタートアップのベースを作ってきたと自負しています。テクノロジーで激変するこれからの5年間でも、さまざまなスタートアップがさまざまな分野で生まれてくると確信しており、今後ヨーロッパ拠点も強化しながら、先端技術の<Origination><Incubation><Implementation>をグローバルに実現します。

(5)セグメント区分の変更と当期の業績予想について

 今回の新中期経営計画の策定に合わせ、セグメント区分の変更をします。今後さらにテクノロジーが激変し競争の激化が見込まれる中、単独の事業のみでは高成長は困難であり、DGグループの多彩なアセットを統合させた成長戦略を進めるため、事業セグメント構成についても変更を行います。

 主な変更点としては、旧FTセグメントとMTセグメントを統合し「プラットフォームソリューション・セグメント」としました。消費購買により収益を得る決済事業では、その源泉であるECなどの加盟店企業の売上やビジネスを支援するマーケティングやDX事業を総合した取組みが必須であるためです。また、セグメント統合に加えて、収益モデルもよりリカーリング化してまいります。

 また、これまで投資事業のボラティリティが高い事もあり業績予想を開示しておりませんでしたが、基礎事業である「プラットフォームソリューション・セグメント」については、予想を開示する事としました。以下のスライドをご覧ください。

 今期は、15%以上の成長目標に向けて推進しておりますが、新規事業の収益化及びグループ戦略により、当中計期間の5年間では利益の成長CAGR20%以上を達成すべく成長戦略を進めてまいります。

 

Ⅲ. 次世代AIとESGへの取り組み

(1)ChatGPTのその先を見据えた研究開発 = Digital Architecture Labの取り組み

 昨今、Open AI社のChatGPTをはじめGen AIを用いたサービスが注目されています。DGとカカクコムが主導してきた『DG Lab』の取り組みでは、「食べログ」にて5月8日に日本初となるChatGPTプラグインの提供を開始しました。

 Gen AIは人間の創造性のサポートや、業務の効率化など、さまざまな産業での活用が期待されている一方、偽情報を生成してしまうことや、プライバシーやデータ保護のあり方が未整備であることなど、課題も表面化してきています。共同創業者の伊藤穰一がリードする『Digital Architecture Lab』では、これらの課題にアプローチするChatGPTの先を見据えた研究開発を行っています。それらは、人間の脳で言うと【右脳のような”Gen AI – ニューラル・ネットワーク”】と【左脳のような”シンボリック不確実性プログラム”】を掛け合わせ、人間の思考回路に近く、信頼性の高いAIの開発です。2021年、米国MITとシンボリック不確実性プログラムの一つであるMIT Probabilistic Computingの共同研究に端を発し、現在もグローバルに研究を進めております。

 また、Gen AIに関連するスタートアップを支援する取り組みとして、資金サポートだけではなく、技術、プロダクト開発、営業、人材採用、ファイナンスなど多角的に企業を支援し、成長を加速させる【Startup Studio】をグローバルに開始します。

 6月8日に開催するTHE NEW CONTEXT CONFERENCE TOKYO 2023 Summer 『Gen AIが創造する新しいグローバルコミュニティ 〜インターネットビジネスはどう変わるか〜』は、松尾 豊氏(東京大学大学院工学系研究科 人工物工学研究センター・技術経営戦略学専攻 教授)、Lili Cheng氏(Corporate Vice President Microsoft, AI & Research )、元榮 太一郎氏(弁護士ドットコム 代表取締役社長)、上野山 勝也氏(PKSHA Technology 代表取締役)など各界の第一人者と、テクノロジーとレギュレーションの間で揺れるこれからのインターネットビジネスを考える素晴らしいカンファレンスになる予定です。オンラインでLIVE配信を行いますので、ぜひご参加ください。

(2)ESGの取り組み -「Earthshot」をコンセプトにし、スタートアップの社会実装活動を継続的に支援

 持続可能な社会の実現に向け、投資先企業に向けた「スタートアップ起業家のためのESG講座」の継続的な開催や、「Open Network Lab・ESG1号 “Earthshotファンド”」を通じたESG関連スタートアップへの投資を通じて、DGグループ単体の活動ではなく、ポートフォリオを含めた大きな規模で持続可能な社会の構築へ貢献していきます。

 また、本年6月には、ヤングダボスとも呼ばれる次世代リーダー育成のためのプラットフォームである” One Young World”ならびに渋谷区と連携し、渋谷パルコDGビルのカンファレンスホールでイベント『One Young World Japan Caucus – SHIBUYA 2023』を開催します。世界中の影響力のある若きリーダー達に、より多くの可能性と世界的な課題解決のためのリーダーシップを発揮できる場を提供し、彼らのリーダーシップによってこの世界がより良くなるよう支援していきます。

 株主を含むステークホルダーの皆様におかれましては、新しく始まる「新中期経営計画」も、より一層のご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。


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