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【最新AIビジネス#02】AI時代に起きるビジネスの5つの変革と企業が取るべき戦略

【連載:最新AIビジネス】
AI技術の進展で、AIを活用したビジネスは急速に進化を遂げつつある。知っておきたい最新トレンドや、AI時代の競争戦略とは?国内外のAIスタートアップや業界動向に精通するデジタルガレージの社員が、独自の情報と視点から解説する。

AI技術の急速な進歩と普及に伴い、従来のビジネスモデルや価値提供の方法、組織体制、収益構造が根本から再定義されつつあります。企業やビジネスパーソンは、どのように来たるべき変化に備え、自らを変革していくべきなのでしょうか。

今回はAI時代に起きるビジネスの変化を5つの観点(「顧客と提供価値の変化」「顧客接点や流通チャネルの変化」「組織づくりの変化」「収益性の変化」「パートナー戦略の変化」)から捉え、それぞれについて企業が取るべき戦略について考察します。


<Writer>
株式会社デジタルガレージ GIIセグメント本部 事業共創部 佐伯 裕人

Monitor Deloitte、ByteDance、ALL STAR SAAS FUNDを経て現職。AIやFintech、Enterprise Softwareを中心に、国内外のスタートアップへの戦略投資、提携、事業開発を推進。


1. ユーザー・企業の行動はAIで自動化される

まず、AIがビジネスに組み込まれることで大きく変化するのが、ユーザーの行動です。これまでユーザーは自ら情報を探し、手作業で意思決定を行っていましたが、そのプロセスをAIが代替し、自動化・最適化へと進化していくと予測されます。企業はこの変化に合わせて提供価値を再設計する必要があります。

消費者向けビジネス(BtoC)では、従来はユーザーが検索エンジンを使って能動的に検索や比較を行っていました。しかし今後は、AIがユーザーの嗜好や状況をバックエンドで学習し、先回りして最適な選択肢を提示するようなプロセスへ移行すると期待されています。その結果、ユーザーはよりスムーズに目的を達成でき、ブランドへのロイヤリティや満足度が高まりやすくなります。

これまでユーザーは多くの情報にアクセスできた上で選択をする世界で生きてきたが、これからはその情報が
最適化/厳選され選択が実現することを示す図(出典:Transforming AI from Novelty to Necessity for Consumers

具体例としては、Please(旧MultiOn)というスタートアップが開発する、AIエージェントがAmazon上で商品の検索から決済までを自動的に行うプロダクトが挙げられます。このAIエージェントは自律的に商品情報を検索し、カートへの追加やチェックアウトまでを自動で実行することもできます。ブラウザ上の動線をAIが厳選しながらユーザーに提示することで、ユーザーは自分にあった最適な選択が可能になります。

一方企業向け領域(BtoB)では、AIによる自動化・最適化で、社内のワークフロー自体が大きく再編されるケースが増えています。たとえばKlarnaでは、自社でAI駆動型ワークフローを構築し、既存の外部ツールを解約する動きが報じられました。従来のデジタルツール提供事業者にとっては、こうした顧客企業の「AIツールへの移行」を見据え、より業務フローに深く入り込むか、自社のAIが他ツールとの橋渡しを担うといった、新たな提供価値設計が必要になります。

創業間もないAIスタートアップにおいても、顧客企業の業務フローを大きく変革しつつ成功している例があります。AIを活用した購買の自律型交渉プラットフォームを提供するPactumは、その初期段階でWalmartを顧客として獲得しました。彼らとWalmartの導入事例を紹介したHarvard Business Reviewによると、パイロット段階からビジネス目標に特化し、社内外の関係者を巻き込んだ形で実証を進めることでコンフリクトを最小限に抑え、導入初期での成功を収めたといいます。

特にAIの新技術検証にとどまらず、ビジネス成果を明確に見据えてステークホルダーを巻き込むことが、BtoB向けAIスタートアップには求められます。Pactumは、カナダでのパイロットが成功したのち、Walmartの北米・南米・アフリカ各拠点へとソリューションを拡大していきました。

このように、ユーザーの行動や企業のワークフローが変化するなかで、提供者側は「顧客が求めるものは何か」「どのような行動変化が起こっているか」を正確に把握し、それに合わせた新たな提供価値を設計する必要があります。

2. マーケティングにはきめ細やかな「個別化」が求められる

AI導入によって、顧客接点や流通チャネルも変容しています。

BtoB領域では、AIツールを現場に溶け込ませるために、顧客企業の既存データ環境やAPIとの連携を考慮したきめ細かな導入サポートが求められます。従来のように「SaaSを契約して使い始める」というシンプルな流れだけでは不十分になり、Sales EngineeringやImplementation Consultantといった専門人材による、業務プロセスや技術的課題の深い理解と実装サポートが必要です。スタートアップのMiroや調査会社のGartnerなども、こうした導入支援の重要性を指摘しています。

一方、消費者向け(B2C)ではマーケティング手法がさらに複雑化しています。AIがユーザー単位での個別最適化を行う時代には、従来の一律的な広告配信やキャンペーンでは効果が薄れます。デモグラフィックデータや行動履歴、コンテキスト情報などを駆使し、ユーザー一人ひとりの欲求に合わせて瞬時にメッセージを生成・配信する高度なパーソナライゼーションがより重要になります。ここではデータサイエンス力がより一層問われ、技術とマーケティングが融合した「ハイブリッドなディストリビューション」戦略が主流になると考えられます。

ADWEEKの記事によると、NFL(アメリカンフットボールリーグ)ではAIを活用して国ごとの人気選手の傾向を分析し、ソーシャルメディアへの掲載内容やクリエイティブを最適化しているといいます。AIによる分析と施策実行を組み合わせることで、効率性とスピードが飛躍的に向上し、より高い顧客満足を得られるようになります。

3. 高度な技術的知見を持つリーダーとエンジニアが将来を左右する

AIがビジネスの中核を担うにつれ、組織づくりにも大きな変化が求められています。特に重要なのが、強力なCTOや技術リーダーシップの確保です。AIモデルの選定からパイプライン構築、MLOpsの導入、継続的な最適化に至るまで、高度な技術的知見と戦略的なリーダーシップが不可欠になります。トップレベルで技術戦略を描ける人材がいなければ、優秀なエンジニアが多数在籍していても方向性を見失いがちで、競争優位を築くのは難しくなるでしょう。

また、最先端の技術をけん引できるエンジニアや研究者を確保することが、企業の将来を左右する最重要要素でもあります。AI技術の進化は早く、最新のトレンドを追いながら高付加価値のプロダクトを生み出すためには、トップクラスの専門人材を獲得し続ける競争が激化するのは必然です。たとえば、オープンソースLLM「DeepSeek-V2」を主導したLuo Fuli氏は、Lei Jun氏(Xiaomiの最高経営責任者)が破格の待遇を提示して迎え入れたと報じられています。

さらに、組織内ではAIアシスタントが日常業務を支援し、人間とAIが共創する形で意思決定を行う「組織の新陳代謝」が進むと見込まれます。これにより事業拡大に必要な人的リソースを大幅に削減できる可能性があり、1人やごく少人数で億円規模、あるいはユニコーン級のスタートアップを成立させるシナリオも、もはや絵空事ではなくなっています。Salesforceが今後エンジニアの採用を停止すると宣言したように、AIによる効率化で開発リソースを補える時代が到来しつつあります。

また、BtoB企業では営業職にも技術的な知見が求められるようになってきました。顧客企業がAIのワークフローを社内に組み込むためには、営業担当が技術的に深掘りして顧客企業の課題を分析する力が欠かせないのです。昨今のAccount Executive採用条件にも、AIやデータに関する理解や、技術的アプローチで顧客課題を整理する能力が明確に求められており、今後はこうした傾向が一般化していくと考えられます。

4. 定額課金から「成果連動型の従量課金」へシフトする

AI導入は、収益モデルや収益性の在り方にも大きな影響を及ぼします。これまでのSaaSモデルでは、ユーザー数や月額費用に基づく定額課金が一般的でしたが、AI活用が進む時代には成果連動型の従量課金へシフトする可能性があります。生産性向上やコスト削減、売上増大など、AIが実際に生み出す価値に応じて料金を設定することで、顧客企業は投資回収を明確に把握でき、提供側も成果に見合った対価を得やすくなるからです。

また、AIによる高い付加価値を武器に、従来のソフトウェア企業よりも急速なペースで売上を拡大するスタートアップも登場しています。プロダクトの優位性が市場に認知されれば、極めて短期間で大口の資金調達に成功し、さらにAIの最適化や市場拡大へ投資できるため、SaaS型ビジネスを上回る成長曲線を描くことが見込まれます。

一方で、高品質なデータ確保やモデルの学習・運用インフラコスト、セキュリティやプライバシー対応、モデルライフサイクル管理など、多くのコスト要因も同時に発生します。顧客が自社で独自のAIエコシステムを構築して離脱するリスクや、競合の増大、法規制強化なども考慮すると、収益最大化にはリスク管理と戦略的な計画が欠かせません。最終的には、顧客満足度と価値提供の質が収益性を左右することになるといえます。

5. 「企業間のパートナー戦略」が競争優位をもたらす

AI時代では、単一企業で完結できる領域が限定されるため、エコシステムを形成するパートナー戦略が重要性を増しています。NVIDIAの例が示すように、企業間パートナーシップやスタートアップ支援プログラムなどを通じてエコシステムを構築し、プラットフォーマーとしての立ち位置を確立することが、強固な競争優位をもたらすのです。

エコシステム型戦略では、自社製品を他社サービスやデータ、専用ハードウェアと組み合わせて包括的なソリューションを提供できます。顧客企業は多面的な価値を一括で享受できるうえ、プラットフォーマーは顧客離れを防ぐ「ロックイン効果」を期待できます。協働するパートナー企業が増えるほどプラットフォーム全体の付加価値が高まり、新規参入者が同等の価値ネットワークを短期間で築くことは困難になります。

さらに、パートナーとの連携によりコストやリスクを分散しつつ、顧客ニーズに素早く対応できる点も大きなメリットです。オープンイノベーションによって外部の専門性や最新技術を取り込み、サービスを絶えずアップデートすることで、顧客満足度や競争優位性を長期的に維持できるでしょう。こうしたエコシステム主導のパートナー戦略は、AI時代のビジネス成長を後押しする重要なレバレッジとなります。

AIの登場は、顧客との関係構築から価値提供、ディストリビューション、組織づくり、収益モデル、そしてパートナー戦略に至るまで、ビジネスモデルの全方位的な再設計を迫っています。AIは「適応しなければ遅れを取る」という脅威である一方、「活用すれば市場機会を拡大できる大きな成長エンジン」ともなるもので、小さな成功事例を積み重ねながら社内外のステークホルダーを巻き込むことで、競合との差別化につなげることができるでしょう。早期に着手し、継続的に取り組むことで、AIがもたらす新しい価値を最大限に活かせる組織へと進化していくはずです。


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AIがもたらす変革は業界を超えて加速し、AIの活用は競争力を左右する重要な要素になっています。デジタルガレージは、AIを含む先端技術領域でのスタートアップ支援を推進しています。日本初のアクセラレータプログラムOpen Network Lab(オンラボ) を通じて、事業成長を加速させる支援や資金調達支援を提供することで、新たなイノベーションの創出を目指しています。

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