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New Context

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「AI×データ」で実現する、新時代のビジネスの生み出し方とは

世界中で次々に技術革新が起こり、新しい事業やサービスが目まぐるしいスピードで生まれている。特にAIとデータサイエンス分野の進歩のスピードはすさまじい。あらゆる行動がデータとして蓄積され、AIによる精度の高いアウトプットが可能になりつつある。


「生成AI」をはじめ多くの技術が注目されるようになった一方で、ビジネスの現場ではどのように活用すればいいのか、試行錯誤が続いている。数々のAI機能の実装を実現してきたデジタルガレージのAI・データ領域を担う部署の事業長とグループデータ統括の2人に、AIやデータを活用したビジネスの考え方について話を聞いた。


<Speakers>
株式会社デジタルガレージ DG Lab COO 川本 卓馬
株式会社デジタルガレージ グループデータ統括室 室長 勝山 公雄


人類が長年待ち望んでいた「予測」の世界がやってきた

デジタルガレージにて、社内外の企業向けに数々のAI機能を実装してきたDG Lab。元々は幅広い最先端テクノロジーに関する研究開発を行う組織だった。時代の変化に合わせて少しずつ形を変え、2024年7月にAIとデータサイエンスにフォーカスした事業部として再編された。現在は、データを活かしたビジネスやプロダクトの創出を通じ、デジタルガレージ内外へ幅広い価値を提供している。

2022年末のChatGPTの出現を引き金にブームとなった「生成AI」。AIとデータサイエンスを専門にする2人によると、「突如新たな技術が生み出された」というよりは、技術の継続的な進歩に加え、多くの人にとって手触り感のあるツールとしてリリースされたことが引き金となっている、と解釈できそうだ。

勝山:AIに限らず、技術は常にコツコツ進歩し続けており、最近になって革新的な発展があったわけではありません。ただChatGPTをきっかけに、誰もが既存技術を使いやすくなり、一気にブームになったのだと見ています。ブームの土台を支えたのは、昔から少しずつ進歩を続けてきた、CPUやGPUなどのエンジン、データストレージ、インターネット通信といった基礎的な技術だったのではないでしょうか。

川本:同感です。基礎的な技術が発展してきたおかげで、技術革新の土台が整った、というのが今の状況だと思います。データサイエンスの領域でいえば、初期は、とある入力に対して決められた出力を返すという処理しかできませんでした。しかしここ10年で、大量のデータを扱えるようになったことで、法則性を導き出し、発見した法則に基づく処理を返してもらえるようになりました。

さらに現在そして将来には、人類が長年待ち望んでいた予測の世界があります。すでに、売上予測や気温の予測など、数値で表せるいくつかの分野においては、大量のデータをベースにした予測システムは存在していました。さらに最近になって、画像や音声、テキストといった数値以外の情報も扱えるようになり、AI予測による「生成」ができるようになり、その結果、生成AIをはじめとするAIツールが一大ブームになったのです。

しかし、過去の経験上、急速なブームが訪れたとき、幻滅期もすぐにやってきます。深層学習への注目が集まった際にも、まさに同じ現象が起こりました。ブームで終わらせないためには、技術を活用する際に、テクノロジーの現在地を正しく認識することが重要だと思います。

たとえば、生成AIを使ってテキストを生成したものの、事実とは異なる文章が生成されたとします。ユーザーからすると「質が低い」「間違っている」となりますが、AIは間違った動作をしているわけではありません。確率的に、最も可能性の高い文章を生成したにすぎず、その文章の質や正誤はAIからすると、そこまで関係ないのです。この場合、ユーザーはAIがどのような考え方で文章を生成しているのかを理解しておくことが望ましく、ツール開発者は、ユーザーの用途・反応を見ながら適切なサービス設計やユーザー体験を考える必要があります。

勝山氏によると、社会にAIが浸透しつつある世界では、データの重要性はますます増すとのことだ。

勝山:AIアシスタントのようなサービスが当たり前になり、あらゆる業務において、機械が人間の業務を代わりにこなす世界は、近い将来訪れると思います。しかし、結局のところシステムが正確な出力をするためには、どのような情報を入力するのかが重要です。あらためて、どのようなデータを、どのようなかたちで蓄積しておくのかが重視されるようになると考えています。

AIとデータを掛け合わせた新規事業・プロダクトの作り方

DG Labはこれまで、AIとデータサイエンスを掛け合わせ、さまざまな事業やプロダクトを生み出してきた。その背景にあったのは、圧倒的な技術力というよりは、お客さまのニーズを汲み取り、テクノロジーとの橋渡しをしていくノウハウだった。

勝山:最新技術がそのままビジネスに直結するかといえば、必ずしもそうではありません。世の中が求めているのは、実はベーシックなものであることが多いです。まだ注目されていない課題に目をつけることが、新しい事業やサービスを生み出す第一歩です。

川本:同感です。また、どれだけ大量にデータを保持したとしても、それだけで価値に直結することはありません。社会状況、顧客のニーズ、解決のために必要なソリューションを考え抜かなければ、新しい価値はつくれないと考えています。DG Labでは、社内外の様々な事業課題から立脚してプロダクトを開発しているほか、データの利活用に関する企業の皆様のアドバイザーも務めています。

数々の技術開発とプロダクト開発を行ってきたDG Labが現在特に注力しているのが、世の中に散らばる豊富な産業特化のデータを収集・統合管理するデータ基盤『InsiteStream』の開発だ。第一弾として、飲食業に特化したデータ基盤としてリリースした。その概要について、開発経緯と合わせて聞いた。

AI・データサイエンスの社会実装が普及した現在、技術は加速度的に発展し、それを活用したアプリケーションは日々生み出されている状況です。一方で、それを支える「データ」の市場はまだまだ未成熟で、技術を活用しようとする企業内での収集・管理に依存している状況と認識しています。また、私自身が過去に様々な業界・企業のデータ活用に向き合ってきた中で、「自分たちのサービスの利用実績データは大量に保持しているのだが、ユーザーのマスタ管理に課題があり、ユーザーが何者なのかが分からず施策への落とし込みが十分にできない」といった声を多く耳にしてきました。

「世の中に散在する豊富な業界固有のデータを統合し、アクセスしやすい形で提供することで、適切な意思決定・データ活用をサポートするためのデータ基盤」をDG Labのユニークなアセットとすべく、InsiteStreamを立ち上げました。現在は、第一弾として日本全国の飲食店のデータセットの統合管理を実現し、飲食店を顧客とする企業の皆様へ向けたサービス提供を開始しています。

分かりやすい活用例としては、ご利用企業様内で保持していた飲食店データの修正・拡充や、InsiteStreamを活用した商圏分析や営業のアタックリスト作成などが挙げられますが、凝った使い方として、飲食店の『リスク評価』を行っているユースケースもあります。

飲食店の『リスク評価』は、InsiteStreamで管理する過去から現在までの大量の飲食店の出退店のデータを教師として学習したAIモデルを用いて導出しており、金融サービスにおける与信の参考情報としてご利用いただいております。これまで金融機関では、ある時点の決算情報を中心に与信を行ってきていましたが、InsiteStreamで断続的に収集しているデータをもとにしたリスク評価指標も併せて活用することで、環境や事業の変化に即した高い与信が実現できるようになります。

InsiteStreamは、現状では飲食領域に特化しているが、扱う業種の一つにすぎない。今後は、飲食以外の業種へと拡張し、新しいシステムやプロダクトの開発を目指す。

川本:単一の業界だけでも、品質の高いデータ基盤を構築することは難しかったです。特に、さまざまな場所に散らばっている情報を一箇所に集め、アウトプットを見越したかたちに構造化しながら整理をすることは、データサイエンスやAIに関する高いレベルが求められます。飲食領域のデータ基盤開発の学びを活かし、他の業界へ順次拡大していければと考えています。

最新技術の活用にこだわらず、本当に必要な課題解決方法を選べ

うまくいけば、強力な事業やサービスのコアとなる、データとAIの組み合わせ。しかし、手法にとらわれすぎると、誰からも求められないサービスが出来上がる点は要注意だ。

川本:最初から「AIを使おう」「データを活用しよう」とスタートせず「どうすれば課題解決できるのか」から検討し、あらゆる手段を見比べることが重要です。AIやデータの活用はあくまでも目的達成手段の一つにすぎません。しかし、さまざまな企業の方々とお話をさせていただく中で、AI・データ活用をすることが目的となってしまっているケースは以前として多い印象です。最新のテクノロジーに疎い経営層が、「ウチもAIを導入しよう」と号令をかけ、現場の方々がなんとかしてAIを使った取り組みができないかと、頭を悩ませる光景も目にします。

加えて、いざ活用を始める段階ではAIやデータで何ができるのかを正しく認識し、技術的な限界も把握したうえで、ソリューションの設計をする必要があります。「こんなことができそう」という妄想だけでビジネスモデルを描いても、技術的な壁にぶつかり、プロジェクトを断念する、というのはよくあるパターンです。

AIだから、データだから、すごいビジネスが生まれた事例はほとんどなく、課題解決のためにAIやデータ「も」使っている、というのがうまくいっているソリューションの特徴だと思います。

解決すべき課題の特定や、解決手段の選定にとくにこだわっているDG Lab。お客さまからの依頼で事業やプロダクトを開発する際は、早く正確に状況を把握するため「やみくもにヒアリングをしない」のだと言う。

勝山:本当に社会から求められるものを生み出すには、私たちの勝手な予想で進めるのではなく、お客さまがどのような仕事をしているのか、正しく把握する必要があります。そのためには、現場に何度も通うことも重要ですが、対面する担当者から現場の状況を正確に聞き出すことも重要です。DG Labは、過去の事業開発やプロダクト開発の経験から「何を把握すればいいのか」を理解しており、限られた時間のなかで必要な情報を聞き出すことに長けています。

コツは、ヒアリングを「しないこと」です。相手に対して「状況を聞かせてください」から始めるのではなく、事前に情報を集め、知りたいテーマについて仮説を立てたうえで「状況はこうですよね、あっていますでしょうか?」と聞くのです。仮説が間違っていることもありますが、ゼロからヒアリングするよりも正確で詳細な情報を、最短で聞き出せます。

目指すのは、「最強の法人データベース」

これから先、世界で「AI×データ」はどのような進化を遂げるのか。

勝山:AIやデータは、目的達成のための手段として当たり前になると思っています。民間小型ロケットだろうが、空飛ぶ車だろうが、AIやデータの活用は当たり前でありフォーカスされることも減ると思うのです。今、多くの人が当たり前にワードやエクセルを使いこなしているように、AIやデータが自然と活用される世界になるのではないでしょうか。

川本:同感です。AIやデータが当たり前に活用されるようになった未来では、SF映画に登場する世界に近づくと思います。サングラスのように身につけ、街を歩くと目にした情報を自動的に補足してくれるウェアラブルデバイスなどは既に複数社から発表が出ていたりしますが、日常の生活空間に自然とAIが組み込まれているプロダクトがどんどん普及していくのだと思います。

最後に、今後の展望について2人に聞いた。

左から順に、川本氏、勝山氏

勝山:DG Labとしては『最強の法人データベース』をつくりたいと考えています。非財務情報まで含め、企業のあらゆるデータが構造化して整理されており、必要な情報をいつでも引き出せる、便利なシステムの開発を目指しています。

川本:先ほど紹介したInsiteStreamは、最強の法人データベースを太らせる一つのデータソースにしていく計画です。新しいAIモデルの開発や新技術の導入を通じて情報収集の精度を上げつつ、デジタルガレージやアライアンス先のアセットを駆使し、多くの企業へ価値提供可能な大規模データベースの構築を実現させたいです。

DG Labとしては、InsiteStreamそして最強の法人データベースをコアに、自社サービスの開発やお客さまの課題解決を通じて、AI×データの分野でしっかりと存在感を出せるチームへ成長していきたいと考えています。


【About DG Lab】
デジタルガレージで幅広い最先端テクノロジーの研究開発を行い、社内外の企業向けに数々のAI機能を実装してきた組織。2024年7月にAIとデータサイエンスにフォーカスした事業部として再編され、データビジネス・プロダクトの創出を担う。データビジネスの創出や新しいプロダクトの開発などを行う。

お問い合わせ先:info@dglab.com

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