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New Context
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世界中で次々と新サービスが誕生している「フィンテック」市場。お金に関する価値観や常識は刻々と変化しており、その影響は既存の金融サービス事業者にも達している。大企業の中にも、市場の変化に対応すべく対策を練っている企業も多いが、自社だけでは対応しきれないほどその変化は急激だ。
決済サービスを手掛けるデジタルガレージもまた、市場変化への対応を迫られている。業界の最先端をウォッチし、新規事業やサービスを立ち上げるなど、自社とのシナジーを生み出していくことが目的だ。デジタルガレージはいかにしてスタートアップとのシナジーを生み出していくのか。フィンテック領域の新規事業を手掛ける佐藤剛史氏に戦略を語ってもらった。
株式会社デジタルガレージ プラットフォームソリューション戦略部 副部長
佐藤 剛史
2010年1月に株式会社イーコンテクスト(現 DGフィナンシャルテクノロジー)へ中途入社し、決済ソリューションの新規営業に約10年間従事。その後、ベンチャー企業への投資や事業育成支援をおこなう株式会社DGベンチャーズへ出向し約2年、事業連携をメインで担当。新規事業立ち上げの部署を経て、2023年末からはデジタルガレージグループが注力する3つのセグメントの一つ「プラットフォームソリューション・セグメント」のグロースを担う。
国内の事業会社としては、いち早くスタートアップ投資をしてきたデジタルガレージ。今や大企業となったカカクコムにも、創業初期から出資してきた実績を持つ。日本ではまだVCやCVCといった概念が浸透する前から、投資先と協業を行うなど日本のスタートアップ投資の先駆け的存在だったと言ってもいいだろう。
これまでバランスシートを使っての直接投資は、事業連携を狙った投資から純投資まで様々なスタイルを取っていた。しかしながら、デジタルガレージがGPを担うファンド(LP出資を受けたビークル)が設立され、投資ビークルも多様化された現在は、ファンドは純投資を基本とし、直接投資については事業シナジーを視野に入れた投資を行っている。
「事業投資においては、長年培ってきた独自のディールソースである「DG Global Incubation Stream」を通じて、グローバルスケールで、Gen AI・Blockchain等の次世代技術やFintech関連のスタートアップコミュニティに投資・育成をし、事業シナジー効果を発揮しようとしていっています」
実際にこれまでスタートアップとの協業にも携わってきた佐藤氏。その中には、既存の決済事業の100万拠点を超える既存クライアントへのバーティカルな共同提案や複雑なマーケットプレイスやD2Cスタートアップの決済システム導入、WEBサイトのUIデザイン刷新などが事例として出てきているという。
スタートアップのノウハウをうまく活用できている事例がある一方で、うまく進まなかった事例もあったと語る。
「海外の次世代の新技術を持つスタートアップと始めたプロジェクトが成就しなかったこともありました。我々の決済事業の根幹は社会インフラとして大量のトランザクションを安定稼働することですが、技術安定性が私たちの求める水準にまでは達しておらず、まずはその水準を上げていくことが必要なため、一度プロジェクトを見直すことになりました。今後もスタートアップに限らず、海外の新技術を日本の水準にどう取り込んでいくか?といった課題はつきもので、いかに各々の特性や商習慣などを理解したうえでシナジーを生み出し共創していくかがポイントになると思います」
なぜデジタルガレージはスタートアップとの連携を図るのか。
その理由の一つは「時間」だと、佐藤氏は答える。自分たちだけで新規事業を立ち上げることもできなくはないが、ゼロから事業を立ち上げるとなれば当然ながら時間がかかる。そして、世界中で次々と新しいサービスが生まれ、先行事例も多いフィンテック市場で、事業立ち上げをいかにスピード感をもって行うかは大きな鍵であるという。
一方で、スタートアップと組む際には注意していることも多いと佐藤氏は語る。「私たちとの協業が、スタートアップの未来にどう影響するのか慎重に考えなければなりません。新しいマーケットに共創関係としてアプローチしていくパートナーとなるためには、双方が対等な立場でメリットを創出できるように価値創造していく意識を持つことが何より大事だと思います」
スタートアップの成長に向けてデジタルガレージとして提供できるアセットは様々だが、その最たるものが顧客リソースだと佐藤氏は語る。デジタルガレージを通した決済は100万箇所で行われており、処理される金額は6兆円を超える(2024年現在)。それだけの顧客アセットを持っているからこそ、スタートアップが最も課題とするであろう顧客獲得支援も可能だ。それらのアセットを活用したスタートアップの成長支援が最も大切だと佐藤氏は語る。
「スタートアップの支援に対して、すぐには理想的なシナジーが生まれなくとも、顧客紹介や既存ソリューション提供からスタートアップを支援することで、新しいマーケットに早くアプローチし国内外の情報の取得ができます。だからこそ我々が国内外のスタートアップへ投資しているのです」
積極的にスタートアップとの協業を考えているデジタルガレージだが、どのような視点でパートナーを選んでいるのだろうか。佐藤氏ひいてはデジタルガレージが最も大事にしているのが「ソーシャルグッド(Social Good)」だと言う。デジタルガレージが経営でも大切にしている考えで、単にお金を稼ぐだけでなく、世の中のためになる事業かどうかが重要ということだ。それも単に既存の価値をなぞるのではなく、新しい顧客体験を作り出していることも条件だと続ける。
「パートナーとなるスタートアップは私たちとは別の会社なので、私たちとパーパスまで同じということは当然ありません。しかし、社会に何かしらのいいインパクトを生み出したいというスタートアップでなければ組む意味はないと思っています。長期的に見て社会に良いインパクトを出せる事業をしているのか。そのような視点でスタートアップを見ています」
明確な軸を持ってスタートアップとの連携を図るデジタルガレージだが、それは決して簡単なことではない。攻めの姿勢が求められる。
「スタートアップと同じ土俵で闘うには、私たちもマインドを変えなければなりません。スタートアップの立ち上げ期は、オフィスに寝泊まりしながらハングリーに働く人たちもいます。新規事業でベンチャーと協業するならば、デジタルガレージの姿勢も重要です。例えば、事業部門をよりベンチャースピリットを共有できるような環境に整備し、、自分達もスタートアップ経営しているマインドセットで事業に取り組む姿勢を醸成していく必要があると思います。」
実際に、いち早く経営に携わりたいという理由で入社するメンバーも少なくないと言う。
「デジタルガレージは事業の幅が広いので、他社とJVを作って取締役になったり、投資先へ経営として入るキャリアパスもあります。自社でキャリアを積みながら経営層に入るよりも、スピーディーに経営に携わるチャンスがあるのです。普通の会社なら転職しないと築けないようなキャリアを、デジタルガレージなら社内にいながら積めますし、そこに魅力を感じて入社する方も少なくありません。そのようなマインドを持つ人材をもっと増やしていきたいですね」
決済を軸にした安定成長を見込める経営基盤を持つデジタルガレージ。既存事業だけでも十分な利益が期待できるはずだが、なぜリスクをとってでもスタートアップと共に「攻める」のか。その理由の一つとして佐藤氏が挙げたのは「会社のDNA」だ。
今でこそ1,000人規模の企業になったデジタルガレージだが、常に攻めてきた歴史がある。「インターネット時代の『コンテクスト』を創っていく会社」として設立され、攻めることで常に変化もしてきた。
「たしかに既存事業だけでも会社はまわると思いますが、現状維持では『デジタルガレージっぽくない』ですし、デジタルガレージでなくてもできることです。デジタルガレージだからできることをやる。それは事業でも投資でも変わりません。他の事業会社やVCができないことをやるのがデジタルガレージであり、そのために攻め続けなくてはいけないと思っています」
その攻めの姿勢を表しているのがデジタルガレージのパーパスやクレドだ。「常識を疑え」「ファーストペンギンスピリット」という言葉が並び、その姿勢はスタートアップと変わらない。だからこそ、同じような価値観を持つスタートアップと、一緒に未来を作っていきたいと佐藤氏は言う。
「私たちの事業の根幹にあるのは持続可能な社会に向けた新しいコンテクストのデザインです。同じように、社会課題を解決したい、事業を通してインパクトを出したいという企業は、ぜひ私たちにご連絡を下さい。一緒に持続可能な“ビジネスコンテクスト”を創造していきましょう」