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アプリストアの多様化でユーザーに多様な選択肢を コロプラに聞く

2024年6月、IT分野での自由な競争を促す「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」(以下、スマホソフトウェア競争促進法)が成立した。巨大IT企業が築いてきた世界で自由な競争が促進されることで、消費者の選択肢が増え、新たなイノベーションも期待される。

こうした流れの中で、ゲーム会社がAppleやGoogleのプラットフォーム以外で課金アイテムの販売などを行う「アプリ外課金」のしくみを導入する動きが進んでいる。導入を決めたゲーム会社の担当者は、どんな未来を見据えているのか。「アリス・ギア・アイギス」のパブリッシャーである株式会社コロプラ エンターテイメント本部Cスタジオ部長・川合 規文氏と、開発・運営を担う株式会社ピラミッド 制作部部長・小牧 純也氏に話を聞いた。

ゲーム各社が次々と「アプリ外」の課金サービスを導入

現状のAppleとGoogleのアプリ開発者向けの規約では「アプリ外ではアプリ外での料金支払い方法を紹介できる」としており、SNSやwebサイトを通じて外部での支払い方法を紹介することは可能となっている。複数のゲーム会社はこの規約に基づき、独自の「アプリ外課金」サービスの運用を始めている。

また、アプリ外課金のシステム構築サービスや複数タイトルのゲームアイテムを購入できるプラットフォームも誕生している。例えば法案成立と同月の6月にローンチした、国内初⁽*¹⁾のオンラインショッピングモールサービス「AppPay(アプリペイ)」は、続々とゲームタイトル数を増やし、2025年1月時点で10社17タイトルの実績、さらに15を超えるタイトルが導入準備中だという。

※1: 国内事業者としてゲームアイテム向けのモール提供は初、2024年6月3日時点 当社調べ

自社のストアとアプリペイを、ゲームによって使い分け

アプリペイを導入するゲーム企業の一つが、スマートフォンゲームなどを手がける株式会社コロプラ(以下、コロプラ)だ。同社は2018年1月にリリースした「アリス・ギア・アイギス」などのゲーム内アイテムの販売に、アプリペイを利用している。「ユーザーの決済手段の選択肢を増やせることや長期運営をしている既存ゲームにスムーズに導入できることは、アプリペイの大きなメリットだった」と、コロプラの川合氏は語る。

同ゲームの開発・運用をするピラミッドの小牧氏は「『アリス・ギア・アイギス』は社会の変化に合わせた新しいサービス導入にも積極的で、昨年からはサブスクリプションモデルも展開し、現在も試行錯誤を重ねています。ちょうど新しいサービスを検討している段階で、コロプラさんの広告実績があったデジタルガレージのアプリペイに出会いました」と振り返る。

アプリペイ導入成功の鍵は「信頼確保」と「商品構成」

導入から半年以上が経過し、「アプリペイ」の事業効果はどうなのか。川合氏によると利用者は順調に増加しており、支払い手段の多様化を実現できるようになった。

「アリス・ギア・アイギス」のお客様は新しい情報に敏感でリテラシーが高い方が多いことから、アプリペイの導入にあたっても「新しく、買い求めやすいサービスを提供すれば、広く使っていただけるのではないか」と予測していたという二人。しかし、導入当初は思うように軌道に乗せることができなかったと話す。そして利用者数をここまで増やすためには、2つの重要な要素が必要だったという。

一つは「信頼確保」だ。「アプリ外課金」の仕組み自体の認知度がまだ低く、「外部の決済サイトでクレジットカード情報を入れる必要があり、『公式』であっても『公式のアプリ外課金サービス』と正しく認識してもらうのは難しかった」と、小牧氏。この点を解決するため、デジタルガレージのアプリペイチームと連携し、アプリペイのサイト内の表示を工夫。さらにゲームの公式サイト内にはスクロールしても常に表示されるバナーを表示した。この施策によりサイトの安全性がお客様に伝わり信頼を確保できたことで、現在、多くのユーザーが公式サイトからアプリペイストアに訪れるようになったという。

もう一つが「商品構成」だ。川合氏は「アプリストア(アプリ内課金)とアプリペイでの商材の組み立て」に苦労したと振り返る。商品構成や見せ方に加え、ユーザーごと異なるアイテム需要に応じた『おまけ』のつけ方も肝だったという。ヘビーユーザーがアプリペイの主要な利用者になるだろうと見込み、商品構成を設計していたそうだが、実際の反応は違ったケースもあった。そのため、現在も試行錯誤を重ねながら、商品構成を調整しているという。

「アリス・ギア・アイギス」は引き続き、ユーザーの利便性向上を目指したアップデートを進めている。2024年11月にはアプリペイの強みを活かした高額商品の「まとめ買い」サービスを開始。「アプリペイは商品の価格設計の幅が広く、商品構成に応じて、柔軟に値付けができます」と、川合氏。今までは難しかった「まとめ買い」のニーズに対応した1万円以上の商品を作ることができるほか、セット購入により決済の手間を軽減できる利便性向上にもつながっている。

ゲームの価値を後押しする、ストアの多様化

コロプラは「アリス・ギア・アイギス」に続き、「白猫プロジェクト NEW WORLD’S」「クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ」でも2024年11月末からアプリペイを導入した。アプリ外課金のサービスの他、自社決済にも力を入れる彼らはどんなゲームの未来を描いているのだろうか。

川合氏は「お客様の選択肢が広がる未来が来ればいいと思います」。小牧氏は、「『使いやすさ』『買いやすさ』『選びやすさ』に対してポジティブな競争が生まれるのが理想的だと考えています。アプリストアだけでなく、アプリ外課金でも様々なサービスが誕生して、切磋琢磨しつつサービス向上を目指すのが健康的だと考えています」と、新しい未来像を語る。

さらに、ゲームアプリを販売するストア自体が多様化することも重要だと、川合氏は力説する。「現在、お客様がアプリを認知するきっかけは、セールスランキングの上位のゲームを見るか、もしくは多くの広告が出されているゲームを見るという場合がほとんどです。カジュアルにゲームを楽しみたいお客様は特に、本当にやりたいゲームが探しにくい状況なのではないかと考えています。アプリ外課金サービスだけでなく、ストアも含めて『個性』を出し、AのゲームをやりたいからBストアに行く!というように店選びからできれば嬉しいなと考えています」

2人がアプリペイに期待するのは、「アプリペイを訪問すれば面白いゲームに出会えることができる」と思わせるような「ゲーム情報の発信源」としての役割だ。デジタルガレージは日本最大規模のゲームメディアを有する株式会社GameWithと「アプリ外課金事業の共同推進に向けた戦略的パートナーシップ」の基本合意を発表しており、この2社の連携により、スマートフォンゲームの情報発信が盛んになることに期待が高まる。

左から順に、丸山氏(デジタルガレージ)、川合氏(コロプラ)、小牧氏(ピラミッド)、大塚氏(デジタルガレージ)

「“Entertainment in Real Life”」。コロプラが掲げる社のミッションだ。川合氏はインタビューの最後にこんな想いも語ってくれた。「これまであまりゲームに触れてこなかったお客様にも楽しんでいただけるようなプロダクトを届けていきたいです。現代では、タイムパフォーマンスを重視した受け身のコンテンツが好まれる傾向があると考えています。ただ、ゲームの『自分自身が体験する価値』に大きな魅力があると信じています。不変的で他ジャンルのエンタメに比べて非常に強力な力であり、だからこそ、誰しもにゲームを体験してもらいたいです」

2025年12月19日までに完全施行予定のスマホソフトウェア競争促進法により、アプリ外課金サービスも事業規模が大きくなるとみられ、今後は企業によりアプリペイのような課金サービスや自社ストアの導入が促進されるのではないか。

ますます盛り上がりを見せ、新しい姿になるであろうアプリ業界。今後の業界の動きに目が離せない。

アプリペイ

「決済システム」「WEBページ(CMS生成)」「カスタマーサポート」「マーケティング」の機能を提供する、多数のアプリのデジタルコンテンツをアプリ外で購入可能な国内初のオンラインショッピングモールサービス。ゲーム企業独自のアプリ外課金サービスとの併用も可能である。

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