Designing
New Context
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2030年には40~80万人の規模で不足すると予測され、日本全体で課題となっている「IT人材不足」。そのIT業界でいま大きな注目を集めているのが、北海道だ。半導体メーカー・ラピダスの進出をはじめ、企業が続々と北海道にIT事業拠点を開設し、産官学が一体となってIT人材育成に取り組んでいる。
盛り上がる北海道のIT業界の中で7月1日、札幌市のシステム会社・フィーリストがデジタルガレージグループに参画し、「DGフィーリスト」として新たなスタートを切った。変革期を迎えるIT業界に身を置く彼らは、どんな未来を描いているのか。DGフィーリスト代表取締役社長の吉野俊文氏を中心に、同社代表取締役会長・佐々木智也氏、同社取締役・宇藤岬氏の3名に話を聞いた。
Speakers
デジタルガレージ 執行役員、DGフィーリスト代表取締役会長
佐々木 智也
DGフィーリスト 代表取締役社長
吉野 俊文
DG Technology本部 副本部長、DGフィーリスト 取締役
宇藤 岬
北海道のIT産業の勢いが止まらない。国内勢初の「政府クラウド」提供事業者に認定されたさくらインターネットは北海道石狩市にデータセンターを置き、ラピダスは千歳工場を2025年4月に稼働予定だ。北海道、札幌市、北海道大学、ニトリホールディングスは今年、IT人材育成の連携協定の期間延長を決定した。
北海道が地域をあげてIT産業の集積地を目指す背景には、地方が抱える課題がある。2023年の北海道の人口の自然減少数(死亡数ー出生数)は東京都に続く全国2位で、2050年には2020年比で27%減少するという予測も出た。吉野氏は、長年北海道のIT業界で感じてきた課題について、こう語る。
「北海道のIT企業は、東京の大手企業が参入する形や、都心の大企業の子会社が多く、そこからの事業拡大が主流です。北海道だけに言えることではないですが、人口減少や経済の低迷が顕著です。どうしても北海道独自の企業が生き残るのは難しくなっています。この状況から、他社との差別化や優秀なIT人材の獲得が課題です」
一方で近年追い風になっているのが、企業のリモートワークの推進だ。東京に住まずとも北海道からリモートワークができる企業が多くなり、北海道へのUターンや、配偶者の出身地である北海道に家族で戻り、就職するケースも増えているという。
不足するIT人材の採用や育成には2つの肝があると、3人は口をそろえる。1つ目は、新卒採用や未経験の若い方々のニーズをどれだけくみ取れるか。2つ目は「良い教育」だという。「特に未経験者が求めることは、給与面よりも成長がキーワードです。いかにダイヤの原石を見つけ出して、どう育てていけるかが重要な要素です」(吉野氏)。同社では教育に力を入れるとともに、書籍購入のサポートや家族を含めた社員同士の交流イベントにも注力。社員の間に壁がなく仲の良い様子が伝わってくる。
2015年に吉野氏が創業した株式会社フィーリスト(現DGフィーリスト)はニアショア事業やwebアプリの開発等を手がけ、120名規模のエンジニアを有する集団だ。彼らがDGグループに参画するきっかけも、北海道が持つ特徴だった。
「北海道をはじめとする地方都市はコンテンツやプロダクト、サービスが非常に少なく、大半が東京や大阪に集中しています。ただ、これからはそういった事業をしないとダメだと考えました。生成AIが強くなっていき、プログラムが少なくなった時に次の武器になるものを持っていなければなりません。私たちにとって、その武器がプロダクト開発やサービス開発でした」
新しい競争力の開発を現在のマーケット、かつ独立系の1社で実施すべきかと考えたときに、別グループにジョインする、という方法が浮かんだという。
一方、デジタルガレージでも新たな事業開発の基盤強化に不可欠であるスピード感とタフさを兼ね備えたエンジニア集団を探していた。DG Technology本部 副本部長も兼任する宇藤氏は「20程度並行で動いている現プロジェクト内で、PjM (プロジェクトマネージャー)やプロダクトデザインの仲間は続々と増えていました。しかし、エンジニアの”実装メンバー”の強化が課題でした」と説明する。
そんな2社を引き合わせたのは、古くからの北海道のつながりだった。北海道でのスタートアップエコシステムの構築に向け、デジタルガレージと北海道新聞社の合弁会社として設立された「D2 Garage」代表取締役でもある佐々木氏がキーパーソンの一人だ。佐々木氏も加入する、北海道にゆかりのある経営者団体「DRIVE NEW HOKKAIDO!」にM&Aに特化したメンバーがおり、優秀なエンジニア集団を率いる吉野氏を紹介されたのがはじまりだったという。
デジタルガレージグループへのジョインから約3カ月。一番変わったことは「意識」だと吉野氏は振り返る。「元々はJava(汎用性や処理速度に優れたプログラミング言語)やPHP(動的コンテンツの作成に向いているプログラミング言語)が強いチームで、基本は企業の請負で仕事をしていました。特にエンジニアにとっては “納品して終わり” から “自分たちの技術でサービスを育てる意識” に変化しつつあると感じています。私個人としては、相談できる相手が増えた感覚で、意思決定の範囲も今まで通りに任せていただいています」
宇藤氏によると、具体的には不動産DXサービスのMusubellやポイントモール事業、アプリ外課金サービスのアプリペイ、さらにはDGフィナンシャルテクノロジーのサービスも含めてグループ全体で協業が進んでいるという。
これからの会社のあり方はどうなっていくのだろうか。佐々木氏は「これまでのフィーリストがやってきたことがしっかりとベースになっています。教育方針やアットホームな雰囲気、社員みんなで成長していくぞっていう士気の高さ。それにデジタルガレージのプロダクトが混ざり、さらに活性化することで価値ある会社になると信じています。今の北海道が伸びしろしかないので、目指す先は『北海道でIT企業といったらDGフィーリストだよね』というところです」と展望を語る。
宇藤氏は「2社それぞれのカルチャーからシナジーが生まれる。お互い学びあい高めあう取り組みを通じて北海道ナンバー1を目指したい。ITエンジニアとしても成長できる魅力ある会社であり、世の中に貢献している実感が持てる会社になりたい」と熱く語った。
さらに「トップ企業を目指すには海外のエンジニアも含めた開発体制の構築はマストです」と、目線は海外にも向いている。吉野氏によるとベトナム、カンボジア、フィリピン、マレーシアなどが今注目の国のようだ。勢いを増す北海道のIT業界とエンジニア集団の未来に、目が離せない。