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Open Network Labが目指す、日本のスタートアップエコシステムの構築 関西初の「1day」起業支援イベント開催

2022年、政府は「スタートアップ創出元年」を宣言し、その投資額を2027年までに10兆円規模に拡大することを目標とした。日本経済が成長軌道を取り戻すためにスタートアップが欠かせない存在だと認識し、新たなエコシステムをつくるためだ。

その宣言から12年も前に誕生した、スタートアップ支援の取り組みがある。2010年に東京・渋谷から始まった日本初のシードアクセラレータープログラム「Open Network Lab (通称:Onlab / 読み:オンラボ)」は、創設以来多くのスタートアップをインキュベーション(成長支援)してきた。そのOnlabが今年7月25日に関西初の『BOOTSTRAP』を開催した。BOOTSTRAPとは、通常3ヶ月のアクセラレータープログラムを「1日」で体験できる起業家向けワークショップイベントだ。その狙いや背景は何なのか。

関西の起業家らがAIトレンドを学び、事業を考案

「BOOTSTRAP in 神戸」は株式会社みなと銀行、株式会社りそなホールディングス、日本マイクロソフト株式会社と株式会社デジタルガレージ(以下、DG)が共催。神戸市に本店を置くみなと銀行の「ビジネスプラザこうべ」が会場となり、関西圏の大学生や起業家、企業に務める新規事業担当者など約20名が参加した。

午前中は参加者の自己紹介から始まり、続いてマイクロソフト社が国内外のAI技術の動向や技術開発について紹介。どの参加者も最新のAI技術を事業に活かそうと真剣に聞き入っていた。ランチを挟んだ午後のプログラムは、Onlabメンバーをメンターとした4~5人のグループ別ワークショップ。午前中の講義の雰囲気とは変わり、全員が主役の積極的な発言がプログラムの最後まで続いた。

DGのオープンネットワークラボ推進部長の宇佐美氏と、りそなイノベーションパートナーズ株式会社の代表取締役社長 兼 投資部長を務める原田氏は「参加者の成長スピードに驚いた」と口を揃えた。ワークショップ内での参加者の事業アイデアは、ディスカッションを重ねるごとに気付きや発見があったようで、その場で事業の方向転換を決断するなどアイデアの見直しや事業の価値提供を再考する方もいたという。プログラム後の参加者へのインタビューでは「外部の人に事業の説明をすることやフィードバックを受けるのが初めてで、最も有意義だった」とのコメントが多く聞かれた。

「Onlab」とは?起業家が生まれる環境づくりを目指して

「Onlab」の構想が生まれたのは、まだ日本で起業家が少なかった2000年代前半。Onlabの運営母体であるDGの創業者・林氏は、DGやグループ会社であるカカクコムの株式公開を通じて日本型VC(ベンチャーキャピタル)業界の課題を見極め、「日本のスタートアップインキュベーションのあるべき姿」を見出していた。

2010年には日本でシリコンバレーのようなスタートアップエコシステムを作ることを目指し、Onlabを創設。その背景には、林氏が「日米で未来を生み出す若い人たちの情熱や冒険心に差があることを感じた」経験が大きいという。2023年時点でもアメリカと日本とでは 新設法人数に37倍の差が開いている*¹ ²ことから、当時のギャップはさらに大きかったことが想像できる。

*¹参照:U.S. Census Bureau “Business Formation Statistics
*²参照:株式会社東京商工リサーチ 「2023年の「新設法人」  過去最多の15万3,405社、宿泊業は1.4倍

スタートアップ経営や事業成長には中小企業等とは異なるノウハウが必要であり、成功経験者もまだ多くないことから、ごく一部の企業やコミュニティしかノウハウを有していない特殊性がある。日本からスタートアップを輩出するためには、多くの起業家やスタートアップが成功のノウハウにアクセスできる環境が必要だ。今年で第29期を迎えたOnlabの「シードアクセラレータープログラム」は、一貫してその環境づくりに力を注いでいる。一過性のブームや投資リターンだけを目的とした投資や連携とは一線を画してきた、林氏の、そしてOnlabに関わる支援者の情熱が詰まったプログラムなのだ。

りそなHD・みなと銀行との連携で実現した、新たな展開

今回開かれた「BOOTSTRAP in 神戸」は、Onlabの「シードアクセラレータープログラム」で3ヶ月かけて行う新規事業の立ち上げや検証方法を1日に凝縮したイベントだ。新たな形態となる1dayイベントのきっかけは、共催の株式会社りそなホールディングス(以下、りそなHD)との連携だったと宇佐美氏は語る。

「日本中に起業家の卵(アントレプレナー)がいるのに、スタートアップ支援が東京の一極集中で首都圏以外に手を広げることが難しかった。今回はりそなHD様がお持ちのネットワーク、みなと銀行様のネットワークや拠点を使わせて頂いたからこその開催だった」

DGとりそなHDは2022年から業務資本提携を結び、決済事業を中心とした協業だけでなく、総額130億円のCVCファンド「DGりそなベンチャーズ1号投資事業有限責任組合」(DGRV)を設立してスタートアップの投資を開始している。りそなHDの子会社であるみなと銀行は本社を神戸に置き、関西地方を中心として地域のイノベーションを促進する活動に積極的だ。

神戸には企業や組織のイノベーションを創出する日本初の施設「Microsoft AI Co-Innovation Lab」があり、神戸を中心にスタートアップ界隈を盛り上げているメンバーを軸に、今回のイベントが開催された。実際にみなと銀行会長の服部氏が連携協定を結んだ大学にて声をかけた学生起業家が参加するなど、みなと銀行の地域での密なコミュニケーションが窺えた。

エコシステムの構築が、スタートアップ大国の第一歩になる

BOOTSTRAP in 神戸は「首都圏以外の起業家の卵へのリーチアウト」だけでなく、大企業を含むスタートアップエコシステム構築の面でも一役買ったと宇佐美氏は説明した。

「企業や大学で働き、スタートアップと関わることがミッションの方にも参加いただいた。スタートアップの支援は、結局1社だけが推進してもエコシステムを変えるインパクトにはならない。規模を問わず様々な会社がナレッジを共有することで、初めて日本はスタートアップ大国になれる可能性が出てくる。そのエコシステムの構築に本イベントを通して貢献できたことは、とても有意義だった」

DGやOnlabは「150社以上のOnlab卒業生」「Global投資」「コミュニティ形成の場の提供」などを通じて、エコシステム構築の基盤を築いている。Onlab卒業生コミュニティには成長している経営者だけでなく、厳しい状況のなかチャレンジを続けて得た、多様な学びやノウハウが蓄積され、伝承されている。DGは北米だけでなくアジアやEUでも投資をしているため現地のVCやエンジェル投資家ともつながりが強く、その強みを活用したネットワークも特徴的だ。さらに、本社のパルコビルや代官山オフィス、サンフランシスコにある「DG717」、2024年9月にオープンした「DG CAMP AKIYA Yokosuka City」にも起業家が利用できるインキュベーションスペースを備えている。

世界に通用するスタートアップ輩出を目指して

社会の変化に合わせ、Onlabもこの10年間で支援するステージや分野を少しずつ成長させてきている。第29期からは国内での成長支援プログラムだけでなく、Day1からグローバル展開を目指す事業を成長させる「GLOBAL Track」を新設した。今期はどのようなスタートアップの卵が活躍を見せるのだろうか。

また、2024年はOnlabだけでなく、DGとしてもスタートアップ投資に対する大きなアクションがあった。りそなHDとの共同CVCファンド(DGRV)設立がその例である。DGとともにDGRVを率いる原田氏に今後のソーシングを尋ねると、「りそなイノベーションパートナーズ、DGRVは立ち上げから4か月ほどで様々なアプローチを試行中。ただ、DGグループの投資子会社である株式会社DGベンチャーズの流れを活かしながら、銀行独自の強みやネットワークについても活用できるようにしていきたい。さらにスタートアップ支援のエコシステム構築に関しても、起業家に、そしてDGグループに還元できるようにしたい」と熱く未来を語った。

Onlabの使命は明確だ。日本から世界に通用するスタートアップを輩出し、その過程で新しいエコシステムを築くこと。起業家たちの情熱と志を支えながら、未来のイノベーションを次々と生み出していく。

Open Network Lab

「世界で通用するスタートアップの育成」をミッションにこれまでの15年間で築き上げたインキュベーションの知見や国内外のネットワークを活かし次のステージへの成長を支援し。現在は第29期のプログラム実施中であり、2024年12月にはDemo Day(デモデー)を開催予定。

*Demo Day(デモデー):資金調達および共同研究、協業機会となる、国内外の投資家や事業会社に向けて開催するピッチイベント。

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