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【連載:キャッシュレス最前線】 日常生活に急速に広がりつつあるキャッシュレス決済。企業や団体は、より便利なサービスや更なる業務効率化を実現しようと、さまざまな場面でキャッシュレス決済の導入を加速させている。「そんなこともできるの?」「そんな場所でも使えるの?」とヒントになるようなキャッシュレス決済の活用の最前線を取材し、連載でお届けする。 |
「2025年までにキャッシュレス決済比率4割」を目標に、決済のデジタル化を推進する日本。そのキャッシュレス決済比率は2023年に39.3%に達したが、他の先進国と比べるとまだまだ低水準だ。中でも訪問販売やイベント会場など、店舗以外での決済をキャッシュレスに切り替えることは、なかなか進んでいない。電源や通信などのインフラ整備、風雨にさらされても故障しない耐候性など、考慮すべき点が多いためだ。
そんな中、東京地下鉄(東京メトロ)が駅の高架下に新設した屋外スケートボードパーク「RAMP ZERO」は、オープン時からキャッシュレス決済を導入した。事前支払いはもちろん、現地支払いにも、各種QRコード決済やクレジットカード決済に対応できる「Cloud Pay Neo(クラウドペイ ネオ)」を利用している。ユーザーの利便性と店舗運営の快適さを追及するRAMP ZEROがサービスを導入した背景や、具体的な活用方法について、運営する東京メトロの村田幸星氏に聞いた。
RAMP ZEROは、東京メトロ日比谷線南千住駅から徒歩1分の場所にあるスケートボードパークで、初心者のためのスケートボード教室も開催されている。「子どもたちが気軽にスケートボードを始められる機会をつくりたい」「スケートボードを通して、寛容さ、協働する力、そして創造力を身につけて欲しい」という思いから設立され、2024年3月にオープンした。
元々は東京メトロ内の新規事業の創出を目的とした社内事業開発プログラム「メトロのたまご」で提案され、現在は提案をおこなった東京メトロ社員が事業推進・運営に携わっている。経緯について、村田氏に聞いた。
「RAMP ZEROは、もともと私とは別の社員が提案していた事業でした。ご自身の子どもがスケートボード中に上級者と接触をして怪我をしたことから、安全なパークをつくりたいと提案をしたそうです。その1年後に私が同じビジネスモデルを提案し、一緒に事業を進めることになりました」
パークの特徴は、「ランプ」という楕円を半分に切ったような地形が3つあり、スケートボード初心者から経験者まで、幅広く楽しめるところだそう。3月のオープンから5カ月ほどで来場者数は約1000名にものぼった。
RAMP ZEROではオープン当初から、予約と事前決済をオンラインで完結できるシステムを導入した。事業フェーズやビジネスモデルを鑑みて、キャッシュレス決済の導入は必須だったと村田氏は語る。
「スケートボードパークは、最初から無人で入退室管理や予約管理ができるシステムを導入する想定でした。受付に人を配置すると人件費がかかりすぎ、収支が合わなかったからです。キャッシュレス化についても最初から決めていました。屋外施設という点にくわえ、現地での現金管理のコストを抑えるために、必要だと考えていたためです」
オンライン決済サービスは複数社を比較検討し、デジタルガレージグループのDGフィナンシャルテクノロジーが提供するマルチ決済サービス「VeriTrans4G」を選択した。「最終的に複数の決済サービスの中からVeriTrans4Gを選んだのは、もっとも費用対効果のいいサービスだったからです。新規事業で、売上がどうなるかわからないなか、可能な限りコストを下げたいという気持ちが強かったです」
事前予約システムの整備を進めつつ、RAMP ZEROでは例外的に発生するであろう現地での料金のやり取りをどうするか、課題を抱えていた。
「基本的に、RAMP ZEROの利用者には予約時点で事前決済をお願いする仕組みになっています。ただし、予約システムのバグ等により決済が完了しないまま利用予約が完了してしまうこともあります。その場合、現地で支払いをお願いするのですが、管理のコストが大きすぎるため、現金の取り扱いは難しいと思っていました」
そんな課題を解決できるものとして、DGフィナンシャルテクノロジーから提案されたのが端末レス決済サービス「Cloud Pay Neo」だったという。「将来的にはRAMP ZEROでスケートボード関連の商品を販売したいと考えており、それも見越したキャッシュレスの支払いの仕組みを整えたいとも考えていました。そのような課題感や今後の構想についてDGフィナンシャルテクノロジーの担当の方にお伝えした際、ご提案いただいたのがCloud Pay Neoでした」
Cloud Pay Neoは、消費者が自身のスマートフォンでQRコードを読み込むと、支払画面が立ち上がり、カードやID決済で簡単に支払いができる「端末レス」の決済サービスだ。その手軽さが導入の決め手になったとのこと。「QRコードさえ用意すれば決済が完了する、というわかりやすさがよかったです。お客さまから見ても、今やQRコードは非常に馴染みのあるもので、スムーズに読み込んでもらえると思いました」
RAMP ZEROが営業開始してから約7カ月。決済に関するトラブルはなく、パーク運営はスムーズに進められているとのこと。現地決済が発生した場合も、Cloud Pay Neoを活用し、スムーズな決済を行うことができているそうだ。
「Cloud Pay Neoは、クレジットカード決済だけでなくPayPayをはじめとした各種QR決済にも対応しています。不意に事前決済を完了していないお客さまが来場されても、いずれかの決済手段で対応できるだろう、という安心感があります。これから先、物販を始める場合も、Cloud Pay Neoがあれば問題なさそうだと思っています」
現地決済の場合、決済のタイミングはバラバラで、お客さまにとって都合のいいタイミングを見計らって、声をかけるのだそう。
「たとえば、時間ギリギリに来場されたスクール受講予定のお子さまの場合、一旦レッスンの準備をしてもらいます。親御さまの手が空いたタイミングで、支払いのお願いをさせてもらっています。
支払い手続き完了までは、2分もかからないと思います。途中で詰まることはほとんどなく、お互い負担なく、パッと済ませられるので助かっています。事業スタートから一度も、使いにくいといったご意見は寄せられていません。誰もが当然のように利用できる、使いやすいサービスなのかなと思います」
現地決済のオペレーションは、Cloud Pay Neo導入時にDGフィナンシャルテクノロジーの担当者よりレクチャーがあり、すぐに使えるようになったそう。「とにかく丁寧に教えてもらったことを覚えています。操作一つ一つ、細かいところまで教えていただけたので非常にわかりやすく助かりました」
RAMP ZEROは新規事業としてスタートしたばかり。直近の目標は将来にわたる継続性、成長性を示し、その事業性を評価されることだという。そのなかで、キャッシュレス決済をどのように活用する予定か、展望を聞いた。
「将来的にはパークの数を増やしたいと考えており、増やした先の施設でもキャッシュレス決済を導入し、全施設の管理を一括で行えるようにしたいです。効率のよい施設運営を実現できるのではないかと思っています。また、物販スタート時の決済手段としてキャッシュレス決済を活用できると思っています。」
最後に、改めてRAMP ZEROにかける思いを聞いた。
「スケートボードの世界では誰かがトリックを決めたとき、トリックに挑戦したとき、成功の有無に関わらずそれが対戦相手であっても称える文化があります。ライバル同士でも一緒に技を研究し、協力して練習をすることもよくあることです。そのような文化に触れてもらうことで、協調性を育めると考えています。
また、スケートボードさえあれば、言語も文化も越え、言葉の通じない海外であっても友達がつくれます。年齢や性別、国籍にとらわれない、多様性を認める感性も育めるはずです。RAMP ZEROを通して、子どもたちをはじめ多くの人たちが、さまざまな能力や性質を身につける手助けができるとうれしいです」
※ QRコードは(株)デンソーウェーブの登録商標です。
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