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デジタルガレージはなぜ「フィンテック」に投資するのか

デジタルガレージ(以下DG)は、投資事業を担う子会社であるDGベンチャーズ等を通じて約700億円をスタートアップ事業に投資している(2024年3月時点)。加えて、テーマ型ファンドを運用する「DGインキュベーション」や日本発グローバルVCの「DG Daiwa Ventures」を運用するなど、多様な形で投資を行っており、近年はフィンテック領域への投資にも力を入れているという。
なぜ、DGはフィンテック投資に力を入れるのか。その疑問を探るべくグローバル投資インキュベーション(Global Investment Incubation:GII)セグメントに取材した。

GIIはDGグループに数多く存在する投資部門をマネジメントする部門。長年に渡るDGのスタートアップへの投資実績を活かした独自のソーシングや事業ステージに合わせた積極的な支援、会計、税務、法務等のバックオフィスのサポートまで多面的なバリューアップを実施してリターンの最大化を目指す、投資に関わる様々な業務を担っている。今回話を聞いた中島氏、髙橋氏、秋吉氏の3名は金融機関に勤務していた経験もあり、フィンテック領域への投資戦略にも関わるメンバー。フィンテックにどのような期待をしているのか、どのような戦略で投資を行っているのか語ってもらった。

Speaker

株式会社デジタルガレージ 執行役員

中島 淳一

さくら銀行(現三井住友銀行)入行、その後 KPMG ・ローンスターファンズ・丸紅(米国)・クールジャパン機構で、ベンチャー投資を含む各種投資関連業務を担当。 2018 年3月よりデジタルガレージ/DG Daiwa Venturesに参画。現、デジタルガレージ執行役員(グローバル投資インキュベーション・セグメント管掌 GIIセグメント本部長)。慶応義塾大学商学部、The Wharton School of the University of Pennsylvania (MBA) 卒。

株式会社デジタルガレージ

髙橋 くるみ

東京大学法学部卒業後、大和証券グループのアセットマネジメント部門に入社。商品本部にて、ファンドの設立、開示業務に従事。2018年よりDG Daiwa Venturesに参画。AI、ヘルスケア、インターネットサービス等Deeptechを中心にグローバルに幅広く投資。

株式会社デジタルガレージ

秋吉 樹

東京大学経済学部卒業後、日本政策投資銀行に入社。本店及び東北支店にて法人営業に従事した後、財務部にて外債やESG債の発行を通じた資金調達業務を担当。2022年よりデジタルガレージに参画。投資先企業や社内新規事業のバリューアップを行う他、全社の事業/財務戦略策定等にも携わる。

市場拡大とプレイヤーの多様化で広がるビジネスチャンス

まずはフィンテック領域の面白さについて「新しいビジネスチャンスが次々に生まれている」と答えたのが秋吉氏だ。規制産業である金融業界は、これまで多くの縛りがあったため、特定の企業しか参入が許されていなかった。しかし、省庁が規制緩和に向けて動き始めたことで、電子決済やデジタル給与払いの新しいサービスが次々に生まれ始めている。

その業界の盛り上がりについて髙橋氏が市場規模を用いて説明した。「現在、国内のフィンテック市場の規模は約1兆2100億円にものぼり、それは4年前に比べて5~6倍に成長している」とのこと。その進化の背景には、業界プレイヤーの多様化があると言う。これまで金融業界は、クラシカルな企業が牽引するレガシーな産業だったが、近年はスタートアップやIT企業の参入によりプレイヤーも多様化してきた。加えて、金融機関と顧客基盤を持つプレイヤーの間に立ってフィンテックサービスの基盤を提供する「イネーブラー」と呼ばれる企業が、市場の裾野を広げている。

「テクノロジーが業界に与えたインパクトは大きい。狭義のフィンテックに限らず幅広い」と述べ、特に業界の変化を感じているのは、金融業界での経験も長い中島氏だ。「私が銀行員で働いていた時代は、稟議書を書くのも手書きで『字が綺麗じゃないと出世できない』なんて言われていました。それが今はテクノロジーの発展により、業界の中はもちろん、私たち個人の生活にも大きな変化が起きています。これから更に大きな変化が起きる金融業界ですが、その中で投資をするには膨大な知識が必要です。国内の法律や規制はもちろん、海外の規制や最新情報についても把握しなければならず、非常にやりがいにあふれています。誰でもできる仕事ではないからこそ、この仕事に誇りと面白さを感じますね」

フィンテック企業として「事業連携」の可能性を模索

なぜDGはフィンテックに投資をするのか。その答えは、DG自身が決済代行事業者(Payment Service Provider)として、EC事業者などに向けて様々な決済手段を一括提供しているフィンテック企業だからだ。既に業界でもポジションを確立しているものの、さらに事業を成長させるためにはより顧客に対して役立つサービスを提供しなければならない。

しかし、変化の激しいフィンテック業界を傍から見ているだけでは変化に対応できない。業界のリアルをウォッチし続けるには有望なスタートアップに投資し、時には自社に取り込んでいく必要がある。ただしその目的は子会社ごとに微妙に異なると中島氏は続けた。

「直接投資をしているDGベンチャーズは、かつてはファイナンシャルリターンを求めて投資をしてきました。しかし、現在は、今連携出来ずとも「将来」事業連携の可能性のある企業を中心に投資をしており、その機会も増えてきました。なお、実際に事業連携が始まっている会社については、DG Strategic Investmentという別ビークルも準備しております。また、DG Daiwa Venturesは外部からお金を募って投資をしているため、出資してくださる企業にもメリットがある会社とお話しさせていただくことも多いです。フィンテック企業への投資実績もあってか、ファンドにご参画頂く大手金融機関も増えております」

「投資で得た情報をDGだけに留めておくのはもったいない」と補足したのは髙橋氏だ。DGは北米をはじめ、世界中で時代を先取りする投資を行ってきたため、グローバルインキュベーションストリームと称する独自のネットワークを保有している。そこで得た情報を社内で独占するよりも、出資してくださる企業とシェアしてレバレッジを生んだほうが双方にメリットがあると語った。

フィンテックは日本よりも海外の方が何歩も先を歩んでいる。北米や欧州には数多くのフィンテック企業が存在し、日本にはないサービスが次々と生まれている。また、東南アジアやアフリカなどの新興国は金融インフラが整っていないからこそ、フィンテックによるイノベーションが起きているのだ。

DGはこれまで、金融機関向けに個人資産管理ツールを提供する企業やP2Pレンディングプラットフォームを手掛ける企業などに出資をしてきた。急速な変化を遂げている金融業界だからこそ、世界中のフィンテックサービスに目を光らせておく必要があると髙橋氏は言う。

無論、国内のフィンテック投資にも余念がない。「たとえば出資先スタートアップのFivotのFlex Capitalというサービスは、SaaS企業等に対して売上予想を基に貸付を行うRBF(Revenue Based Finance)を提供しています。すぐには私たちの本業と連携するのは難しいかもしれませんが、将来的に予測の精度が高まればSaaS以外の事業者にも貸付を行えるようになるでしょう。一方で私たちは、飲食店向けのサービスを展開しています。もしも飲食店の売上予測までできるようになれば、貸し倒れのリスクを減らすことができ、安心して資金提供できるようになるでしょう」

フィンテックの解像度を上げるため、国内外に積極的に投資

今や数あるフィンテック企業の中から、DGはどのような戦略で投資先を決めているのだろうか。髙橋氏は「ミクロとマクロ、両方の視点から考えなければならない」と答える。金融サービス自体は決して新しいものではなく、メソポタミア文明の時代からその概念は存在していた。現在の金融サービスも、基本的にはその形を変えたものにしか過ぎず、マクロの視点から見れば根本的な価値は変わらない。

一方で、ブロックチェーンなど業界を革新するサービスが次々に生まれているのも事実だ。これまでに予想もできなかったようなサービスも登場しており、既存の金融の概念を踏襲しているだけでは時代に追いつけないため、ミクロの視点も欠かせない。普遍的な金融の価値と新技術によるトレンド、その両方をバランスよく考える必要があると言う。

ただ、新しいトレンドを生み出すようなフィンテックサービスを探すのは「新種の生物を探しに行くようなもの」だと中島氏は続けた。「フィンテックは国ごとに独自に発展しているため、その全容を把握するのは容易ではありません。変化のスピードも早く、雑誌などで『最新のフィンテック』などと特集されるのは既に1年前の情報です。そのため、フィンテックの最先端を追いかけるのは未開の地で図鑑に載っていない動物を探すようなもの。

自ら各地のプレイヤーに話を聞かなければなりませんし、実際に投資してみなければ実情も分かりません。全ての投資がうまくいくとは限りませんが、試行錯誤を繰り返しながら戦略を練っては修正を繰り返しています。私たちが投資するということは、決して提携だけを目的にしているわけではなく、世界のフィンテックの解像度を上げることにも繋がっているのです」

よりグローバルでシームレスな投資を目指して

世界各地のフィンテックに投資するDGだが、その強みとは何なのだろうか。秋吉氏は「事業アセットを抱えていること」と答えた。自社で決済サービスを展開しているからこそ、時にはそれらを投入して出資先のマネタイズまでサポートまでできるのは、他のVCにはない強みだと言えるだろう。

髙橋氏が考える強みは「ブロックチェーンへの深い知見」と「他領域のアセット」だ。DGは世界に先駆けてブロックチェーンへの投資をしており、常に最先端の情報を得続けている。だからこそ、ブロックチェーン領域では唯一無二の知見に基づいたサポートが可能だ。

また、時に他業界の技術がフィンテックサービスに革新を起こすこともある。たとえば、半導体の技術によってスマートフォンを始めとするデバイスの性能を上げるのもその一つだ。デバイスの性能が上がれば、未だ想像もできないようなサービスも提供できるようになり、新たなフィンテックサービス創出に繋がることを期待している。現在、半導体に非常に優れた材料特性を持つ合成ダイヤモンドを使うことで優れた耐熱性で処理速度を上げる技術を持つ会社に注目しているとも語った。

そして、DGの最大の強みである「グローバルでのシームレスな投資」について中島氏はこう語った。「私たちのポートフォリオの4割はアメリカに集中しており、他にも投資先は世界中に存在しています。Zoom会議だけで1日に世界を一周することも珍しくありません。金融サービスというのは規制産業のため、国によって形は違うものの、実は本質的に解決している課題は似通ったもの。そのため、世界中から直接情報を仕入れられる私たちだからこそできるサポートがありますし、私たち自身も本業に活かしております。一方で、地域によって投資の濃淡はあり、それが課題となっています。たとえばサンフランシスコでは強い一方で、欧州はこれからといったように。現地のリード投資家と組みながらあらゆるエリアで信頼を勝ち取り、将来的に、全世界で大きな影響力を持てるようにするのが目標です」

地域だけでなく、サービスの多様性もDGが抱える課題といえる。秋吉氏が言うには、金融サービスのなかでもレンディングなどの分野は、いかに安いコストでお金を調達して貸し出すかが勝負になる。調達コストを下げ、レンディングなどの分野の強化を図るために、信用力の高い大手金融機関との提携を行う動きは各国のフィンテック業界で起きている事象である。DGがりそなグループと提携を果たしたのも、そのような背景があるからだと言う。

また、髙橋氏が考える課題は「次世代のフィンテックイネーブラー」となるための戦略だ。決済プラットフォームとしての業界で確固たるポジションを確立しているDGだが、変化の激しいこれからの時代でフィンテックイネーブラーになるには、更なるサービスの拡充が必要だと言う。今後、どんなリスクをとりながらサービスを充実していくのか、より深い分析が必要になると語った。

デジタルガレージとして今後も更なる成長をねらう

変化の激しいフィンテック領域において、DGの投資事業はどのような役割を果たしていくのだろうか。その問いに中島氏は「DGが成長するための情報とリソースを獲得しにいく」と答えた。リード投資をすることで各地域のエコシステムに入り込み、より鮮度の高い情報を得て分析し、会社の本業と連携させることがミッションだと言う。

そうすることでDGの既存サービスを充実させることができ、提案の幅も広げられるだろう。世界には日本にはないサービスが数多く存在し、それらはそのまま日本に持ち込むことはできないものの、エッセンスを持ち込むことはできる。最新の情報にアクセス可能な私たちだからこそできる、会社への貢献があると語った。

グローバル投資インキュベーション・セグメント

国内外のスタートアップ投資及び育成を行う。北米・日本・アジア・欧州を中心に世界中の有望なスタートアップ企業やテクノロジーへリーチし、DGの各事業との連携を深めることで、DGグループ及びスタートアップ企業の企業価値最大化を目指している。

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