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New Context
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ビジネスパーソンにとって転職は、新しいスキルと経験を身につけ、自らの市場価値を高めるのに有効な手段だ。しかし、業務内容や職場環境がフィットしないリスクもある。そのようななか注目されているのが、一つの企業内で異業種へと所属先を変え、これまでとはまったく違う業務をはじめるキャリアの築き方、いわば「企業内転職」だ。
複数の子会社をもち、幅広い領域で事業を展開するデジタルガレージ(DG)グループは、そんな働き方を推奨する企業の一つである。そのメリットやおもしろさについて、実際に複数回「企業内転職」を経験したメンバー3名に話を聞いた。
株式会社デジタルガレージ プラットフォームソリューション戦略部 副部長
佐藤 剛史
2010年1月に株式会社イーコンテクスト(現 DGフィナンシャルテクノロジー)へ中途入社し、決済ソリューションの新規営業に約10年間従事。その後、ベンチャー企業への投資や事業育成支援をおこなう株式会社DGベンチャーズへ出向し約2年、事業連携をメインで担当。新規事業立ち上げの部署を経て、2023年末からはDGグループが注力する3つのセグメントの一つ「プラットフォームソリューション・セグメント」のグロースを担う。
株式会社DGフィナンシャルテクノロジー 営業本部 グローバルアライアンス部 マネージャー
白石 玲音
2011年に株式会社デジタルガレージに新卒入社しメディアインキュベーション事業に携わった後、決済事業を展開する株式会社イーコンテクストにてエンタープライズ向けソリューションの提案、デジタルガレージ社に戻り海外駐在のほか広報や人事といったコーポレート業務など幅広い業務内容を経験。現在は決済事業で海外企業に向けたパートナーシップ締結とコンサル営業を行う。
株式会社デジタルガレージ コーポレート本部サステナビリティ経営推進室 シニアサステナビリティプランナー
赤坂 美奈
2018年に株式会社D2 Garageにジョインし、アクセラレータープログラムOpen Network Lab HOKKAIDOのプログラムディレクターとしてスタートアップの育成・支援業務に従事。その後はデジタルガレージ社のサステナビリティ経営推進室に異動し、DGグループの持続的な成長と企業価値向上に向け、サステナビリティ経営の推進に従事。
「持続可能な社会に向けた“新しいコンテクスト”をデザインし、テクノロジーで社会実装する」というパーパスに基づき、決済、マーケティング、スタートアップへの投資・インキュベーション事業など、多様な事業を展開し、さまざまな事業シナジーを生み出してきたDGグループ。希望者に対しては、未経験であってもまったく違う事業・職種への異動が可能な制度を設けている。複数事業に携わり、ユニークな業務歴をもつ3名。幅広い経験をしているがゆえに、それぞれのスキルセットもユニークだ。
赤坂「私はスタートアップと大企業、両方の経営に関する知見を身につけられました。限られたリソースのなか、時には事業転換しながらスピーディに事業を進めるスタートアップと、上場企業として求められる高い水準を満たしながら、大きな影響力で社会にインパクトを与えるデジタルガレージとでは、経営の仕方が異なると実感しています」
佐藤「投資に携わる仕事を通して、会社の経営状態を見るスキルが身についたと感じています。財務三表を読み解くなども含め、ベンチャー投資のメカニズムを理解することができました。そのおかげで、自分が任されている部門やセグメントの舵取りをスムーズにできています」
白石「私の場合、パートナー営業、プロジェクトマネジメント、英語でのコミュニケーションなどが得られたスキルだと思います。これらはDGグループ外の環境でも活かせると考えていますし、新しい事業への異動も怖くありません。」
企業内転職にはどのようなメリットがあるのだろうか。一般的な転職と比べて「企業内」だからこそ、スムーズに新しい環境に馴染め、自分の仕事に集中できることはメリットの一つだ。
白石「同じグループの中であれば、やることが変わってもこれまで培ってきた人間関係はそのまま活用できます。DGではグループ横断でさまざまな部署と関わり合いながら仕事をするため、仕事が変わっても、どこかで関係性ができあがっている部署との連携が生まれます。そのため、異動後も仕事を進めやすいですし、今の業務につながるインスピレーションも得られるのではと思っています」
赤坂「同感です。グループの中に仲間がいる状態で、新しいチャレンジができることは大きなメリットだと私も思います。新しい業務で行き詰まったとき、以前一緒に仕事をしたメンバーにアドバイスをもらえ、壁を乗り越えられたケースもありました」
佐藤「人間力形成の重要性に気がつくところもメリットの一つだと思います。ビジネスの多くは一つの事業部だけでは成立しません。経理や人事のようなバックオフィス部門をはじめ、多くの部署に支えられて成り立っています。複数の部署を経験することで、そのような当たり前に気づけ、おかげさまで、井の中の蛙にならずに済み、信頼関係をベースに仕事ができていると思います」
佐藤「また、抽象的な表現ではありますが、ビジネスパーソンとしての『強さ』みたいなものを手に入れられるとも思っています。多くの人が入社したてのころは、やる気に満ち溢れギラギラしているものです。しかし環境や業務に慣れるにつれ、そのときの勢いは次第に失われがちです。社内転職により、環境をガラッと変えることで、いつのまにか抜け出せなくなっていたコンフォートゾーンから飛び出し、初心を取り戻せます。
そのような大きな変化を何度も味わえば、次第にチャレンジが当たり前になり、高い成長角度を維持できるようになります。そのような人材はDGグループではもちろん、社会全体からみても市場価値が高いはずです。
さらに、当人だけでなく会社にとってもメリットは大きいと思います。異動を経験した人はDGグループの幅広いアセットに対して深い知識があり、たとえばコンサルティング業務に従事しながらも、決済ソリューションの知見を活用して、クライアントに大きな価値を提供できるわけです。幅広い領域に取り組むDGグループではとくに、横断的な視座で新しいソリューションを生み出せる能力は、大きな価値を生み出せます」
新しい挑戦がしやすいことは、若い世代だけにメリットがあるわけではない。50代以上のすでに要職に就いているベテランにとっても、得られるメリットは大きいはずだという。
佐藤「ベテランが率先して新しい挑戦をする姿は、若いメンバーにとってリスペクトの対象になります。もちろん、これまでの専門性が通用しない分野への挑戦であれば、失敗をすることもあるでしょう。それでも、チャレンジをする姿勢そのもので得られる評価は高いです。また、人生100年時代において50〜60代はまだ折り返し地点です。失敗を糧に成長を続けることで、今よりさらに大きな成果を出すことにつながります」
企業内転職のよさはスキルアップだけではない。シンプルに「おもしろい」のだと経験者は語る。
白石「企業内転職では、自分の世界を大きく広げられます。私自身、複数の業務に携わるなかで本当に幅広い業界や人と接点を持つことができて、大きな財産になりました。
また、会社のいいところがよく見えるようになったと感じています。これまで携わったどの部署のメンバーもいい人ばかりで、それぞれがプロフェッショナルとして真摯に自分の仕事に向き合っていました。そのような姿を知って、これまで自分の見えていた範囲が、いかに狭かったのかがわかり、DGグループだからこそ相互理解や事業シナジーが意識されないともったいないなと思いましたね。尊敬できるメンバーと一緒に働いている感覚が高まることで、仕事へのモチベーションも上がりました」
DGグループが推奨する企業内転職という考え方は、これからの社会で増えるのだろうか。経験した3名は口を揃えて「増える」と言う。
佐藤「企業内転職はこれからの社会で、当たり前になるのではないでしょうか。私は今後、これまでの社会の動きから推測するに、従業員側が今よりもさらに力をもつようになると考えています。企業の内外によらず、自分のやりたい業務や就きたいポジションを、より主張する人も増えるでしょう。会社側は、従業員側の希望に対して寄り添いながら、働きやすい環境を提供する必要があり、それができなければいつの日か『レガシー企業』と呼ばれてしまうのではないでしょうか」
赤坂「私も企業内転職は増えるとみています。会社側からすると、多角的な視点をもつ社員が増えることで、人材に厚みが生まれる点でメリットとなるのではないでしょうか。従業員側からすると、低リスクでさまざまな経験が積めて、キャリアの選択肢が広がる点でメリットがあります。双方にとってメリットのある仕組みならば、きっと増えていくはずです」
最後に、話を聞いた3名それぞれに、今後のキャリア像についても聞いた。
白石「入社して最初に携わっていた業務のような、ビジネスインキュベーションへの強い志向と、積み重ねた幅広い経験をもって仕事がしたいと考えています。とくに、これまで身につけたパートナー営業や海外企業とのコミュニケーションスキルを活用して、海外発の事業シーズが日本でスケールするにあたってのサポートを、決済領域に限定せずできるといいなと考えています」
赤坂「私は今携わっているサステナビリティに関する業務に大きなやりがいを感じており、同領域の道を極め、サステナビリティ経営の観点から企業価値を高められる人材になりたいと考えています。そもそも異動前は『SDGs』『温室効果ガス』などの基本的な単語しか知らないレベルでしたが、サステナビリティの本質に触れた今、これからの社会にとって大変重要な領域であると理解しています。会社と社会が持続的に成長していくためにも、自分のキャリアのためにも、さらに知見を深めていきたいです」
佐藤「私は企業内転職のような人材育成の仕組みを、今よりさらに整え、広めることに貢献したいです。実際に企業内転職を経験している我々からすると、自分のキャリアにとって大きなプラスになることはわかっています。しかし、体験したことない人からすれば、いまいちわかりにくいものだと思います。そのような状況を非常にもどかしく思っており、我々の手応えを伝えつつ、仕組みや文化づくりに貢献できればと思っています。
結局、企業の成長の根幹は『人』です。引き続き、社会に大きな価値を与える事業づくりに取り組みますが、人の成長を促す環境づくりにも、しっかりと取り組んでいければと思っています」