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病院の待ち時間がゼロに?医療DXを促進する決済サービス誕生へ

診療後の長い待ち時間がゼロになる日が来るかもしれない。国内最大級の決済プラットフォームを提供するデジタルガレージは「医療業界特化型決済サービス」を2024年中にリリース予定だ。このサービスが普及すれば、医療機関は複雑な診療報酬の計算を慌ててする必要がなくなり、患者は会計待ちのストレスがなくなる。さらに開発チームによれば、決済のデジタル化は「医療業界のDX」の入り口にすぎないとのこと。遅れている「医療業界のDX」現状と今後の可能性について、デジタルガレージ デジタルヘルス事業開発部の小原 由記子氏と高山 雄氏に話を聞いた。

Speaker

株式会社デジタルガレージ デジタルヘルス事業開発部 部長

小原 由記子

総合人材サービス企業、情報通信企業で多岐にわたる新規事業に従事したのち、医療ヘルスケアスタートアップに参画し取締役を勤める。その後2019年にデジタルガレージに入社。DG Lab BioHealthチームシニアマネージャーを経て2022年より現職。

株式会社デジタルガレージ デジタルヘルス事業開発部

高山 雄

医療系コンサルティング会社にて、経営支援業務を中心に、新規事業展開の企画、実行支援や診療所、介護施設の開設支援業務に従事。その後2019年にデジタルガレージに入社。脳MRI健診事業の営業、企画、システム運用業務に携わり、現在の医療決済業務に参画。

医療業界でDXが進まなかった3つの事情

デジタル化により、あらゆる体験がより便利に、よりスムーズに変わった。人々のストレスは減り、生活は快適になっている。一方で、さまざまな事情からデジタル化が進みづらい領域も存在する。そのうちの一つが医療だ。何十年も前から、診療を受けたい人は病院へ行って整理券をもらい、診てもらったあとは会計の順番が来るのを待つ。診療時間は数分でも、待ち時間が数時間になることも珍しくない。

なぜ、患者側から見た診療の流れは、もっとスムーズにならないのだろう。診療後の待ち時間をゼロにする新サービスの開発に取り組む、デジタルヘルス事業開発部の高山氏に聞いた。

「原因のうちの一つが収益の仕組みにあります。診療の流れをビジネスモデルと捉えると、各医療機関は医師の診療数が売上に直結する、労働集約型のビジネスモデルだともいえます。その場合、医師の業務を効率化することは直接的に売上を左右する要素になりますが、看護師や事務スタッフの方々の業務効率化は、売上への影響が見えにくいです。そのため、売上に直接的につながらない設備投資は優先順位が下げられがちです」

ビジネスモデルの問題以外にも、医療現場にはデジタル化の進みにくい事情が大きく2つあるとのことだ。1つ目は、サービスの受け手である患者のうち、多くは高齢の方であること。医療機関としては、新しいシステムを導入しても使ってもらえないのでは、とためらう気持ちがあるのだという。

2つ目は、一般的な会社よりも厳密な情報の取り扱いが求められることだ。医療機関が扱う患者の情報の多くは法令で『要配慮個人情報』に分類されており、より繊細に扱わなければならない。取得自体に本人の同意が必要、かつ本人同意無しの第三者提供は認められない、など一般的な個人情報よりもさらに厳しい管理が求められる。そのため、病院のシステムを外部のツールと連携させることや、そもそもインターネットへの接続に制限をかける医療機関も多い現状があるそうだ。

新型コロナや「医師の働き方改革」が転機に

複雑な状況があるなかでも、「事前予約システム」「自動精算機」など、新しいシステムを導入する医療機関も増え始めている。その背景には、新型コロナウイルス感染症流行の影響があるという。密を避けるようになり、非接触のニーズが高まるなど患者側の受診行動が変わり、リモート化や自動化を求める声も大きくなってきたのだ。

加えて、国が政策により、医療業界のデジタル化を推進している影響も大きいとのこと。「医師の働き方改革」が2024年4月より始まったことで医師の労働時間管理や時間外労働削減のための取り組みが求められており、デジタル化による業務効率化のニーズが高まっている。さらに、マイナンバーカードと健康保険証の紐付けが推奨されていることも、デジタル化の機運を高める一助になっている。

医療業界特化型決済サービスで、簡単に医療事務を効率化

医療現場のデジタル化が今まさに着手されているなか、デジタルガレージは「医療業界特化型決済サービス」の開発を進めている。具体的にはどのようなサービスなのか、高山氏に聞いた。

「サービスのコンセプトは『待たずに帰れる』です。このサービスを利用することで患者さまは、診療が終わった後、会計を待たずに帰宅できます。当日の診療費は、クレジットカード払いとなります。患者さま側が必要な操作は、受診前に専用のウェブアプリを通じて必要な情報を登録しておくこと。来院時に医療機関で受付に備え付けられたチェックインのためのQRコードを読み込んで利用申告をすることだけです。

医療機関側からすると、時間のかかる診療報酬の算定作業を慌ててその場でする必要がなくなり、手の空いているときにまとめて行えるようになります。対面会計の作業も削減できるため、別のことに時間が使えるようにもなります。サービスの導入に特別な設備投資は必要ありません。ウェブアプリケーションを介して、それぞれの患者さまの負担金額を打ち込めば、会計処理は終了です」

すでに数軒の医療機関にて実証実験がおこなわれており、本格的なサービス開始は2024年中を目標としている。2024年3月時点での状況を、同プロジェクトの責任者・小原氏に聞いた。

「細かい課題はありますが、サービスリリースに向けて順調に開発が進んでいる状況です。実証実験にご協力いただいている医療機関は、それぞれ診療科目も規模も違います。多様な医療の現場でも、サービスは正しく機能するのか、今まさに現場での使われ方を見ながら、調整を進めているところです。加えて、医師や事務職の方々から使い心地についてご意見をいただきつつ、操作性についてもブラッシュアップを重ねる予定です」

医療業界特化型決済サービスの実証事業は、りそなグループとデジタルガレージとの共同で企画開発が進められた。共同事業の背景について、小原氏はこう語る。

「もともと、医療業界特化型決済サービスへの参入はデジタルガレージ単独で進めていました。そのようななか、資本業務提携先であるりそなホールディングスも同じ領域に関心があり、すでに準備を進めていることがわかりました。そこで、一緒に次のステップに進めるとよいのではと、共同開発に取り組み始めました。

また、提携により、お互いの強みを活かし合いながら、よりよいサービスづくりができるのではという狙いもありました。りそな銀行は、国内の銀行のなかでもリテールに強みを持っており、個人や中小企業向けのサービス設計の知見やノウハウが豊富です。一方我々は、国内最大級の決済プラットフォームを有しており、多様な決済手段や高度なセキュリティ環境・管理体制構築の技術があります。また、既存事業でも多くの企業との連携実績があり、サービス構築に伴って必要なパートナー企業との連携が可能です」

決済サービスを入り口に「医療業界のDX」推進とその先へ

小原氏によると、開発中の決済サービスは医療業界のDXにおいて、スタートラインにすぎないとのこと。「現在、プレスリリースをきっかけに多くの医療機関や金融機関からお引き合いをいただき、本サービスへの注目度の高さを感じます。実証事業期間中はもちろん、サービスの正式リリース後も、実際に導入いただいた現場からのご要望に応えつつ、さらなるブラッシュアップをする予定です。

最終的に我々が提供したいのは、医療機関にて行われる医療行為以外の業務、いわゆるノンコア業務全体の効率化です。決済業務はその一部であり、それ以外の業務効率化にもアプローチしたいと考えています。医療機関向けの経営支援サービスもその1つです。また、患者さまが適切な医療を選択するサポートとなるサービスなども考えられます。いずれにしろ、決済サービスを提供することでお預かりする情報をベースに、我々がもっとも価値提供できる領域を検討して進める予定です」

デジタルガレージが構想する「医療業界のDX」が進むと社会はどう変わるのだろうか。高山氏によると、医療の質の向上につながるとのことだ。

「医療業界のDXが進むにつれ、患者さまが自分で自分の健康データを持ち歩くことが当たり前の世界になると考えています。決済情報だけでなく、自身の健康情報や診療にかかった履歴といった情報についても、医療機関と連携をすることが当たり前になると思うのです。これまで分断されていた、病気のきっかけ、手術後の経過、回復後の健康状態など、医師の指示のもと患者が記録することにより、一連の情報が参照できるようになります。その結果、各医療機関は患者さま一人ひとりに最適な医療の提供を、今よりさらに高い精度でできるようになるのではないでしょうか」

日本の質の高い医療体制を維持する。そのためには医療機関側の努力だけでなく、一人ひとりの健康への意識や取り組みも欠かせない。小原氏は、将来的には医療だけでなく「ヘルスケア」の領域にもサービス開発を広げていきたいと話す。

「最終的に目指すのは『医療』に関する情報の非対称性をなくすこと、そして、『医療』と『ヘルスケア』の境界をなくすことです。日本の国民皆保険制度は素晴らしいシステムですが、一方で、保険制度の下の『医療』とその他の商品・サービスが分断されやすいように感じます。しかし、一人の人間から見れば、自身の身体と心は1つです。予防として自由診療である健診を受けるケース、未病の段階で医療にかかる前にヘルスケアサービスを活用するケース、保険医療を受けながら同時に医師の許可を得てヘルスケアサービスを利用するケースなどがあり得ます。そこで私は、一人ひとりの健康を総合的かつ個別に支えられるようなサービスを生み出したいと考えています。デジタルガレージの強みの一つである、マーケティングのノウハウも活用しながら、これからの時代に求められる、一人ひとりのユーザーに寄り添った、データに基づく新しい医療ヘルスケアサービスをつくっていければと思っています」

医療業界特化型決済サービス

受診当日の受付から会計業務までをオンラインで管理可能なプラットフォームを構築。これまでの受診の流れから、会計を分離し、患者が帰宅してから決済を行うことで、待ち時間の短縮による患者の満足度の向上や、医療機関の医療事務の効率化を実現する。

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