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2022年、不動産取引の電子契約が解禁された。数多くの不動産関連サービスを手がける株式会社いえらぶGROUPの調査によると、Z世代の8割以上が電子契約を希望している一方、賃貸・売買問わず「電子契約の利用経験がある」と回答したエンドユーザーは9.1%にとどまっている。
なぜ電子契約は進まないのか?次世代不動産取引のDXエンゲージメントプラットフォーム「Musubell」の統括セールスマネージャー小林雅直氏に話を聞いた。
デジタルガレージ・Musubell 統括セールスマネージャー
小林 雅直
2007年株式会社DGコミュニケーションズ入社。2019年にクライアントからの相談がきっかけで不動産DXプラットフォームづくりに着手。現在は次世代不動産取引のDXエンゲージメントプラットフォーム「Musubell」の統括セールスマネージャーを務める。
テクノロジーの進化により、情報を紙でやり取りする時代は終わりを迎えつつある。あらゆる書面が電子化されるなか、移行が遅れている業界・領域も存在する。そのうちの一つが不動産業界である。
多くの人にとって人生最大の買い物である不動産。ゆえに間違いや不正が起こらぬよう、新しいテクノロジーの導入には慎重さが求められる。そんな中、2022年に宅建業法の改定が行われ、これまで書面の交付義務のあった「重要事項説明書」「37条書面」の電磁的交付が認められた。宅建業法の改定から約1年の今はまだ、対応できている業者は少ない。
不動産購入を検討中の顧客からすれば電子化へのニーズは強い。三菱地所レジデンスによると、顧客が不動産契約の際に紙での契約よりも、電子契約を選ぶ割合は80%にも上るとのこと。60代以上を除けば、さらにその数字は90%以上にもなる。
そもそもなぜ、電子契約が求められているのか?小林氏によれば、顧客にとって電子契約は「メリットしかない」とのこと。「代表的な理由は2つです。まず1つ目は現行の法制度では非課税文書扱いとなるため、印紙税の納税義務が発生しないこと。日本では不動産売買に関わらず、契約行為に印紙代というお金がかかります。金額は契約金額によって変わります。たとえば5000万円以上の物件の場合、印紙代は3万円です。電子契約の場合、印紙代はかかりません。
2つ目は署名・捺印の手間が省けること。不動産購入時に交わす契約書は売買契約書、重要事項説明書、覚書、と平均で4〜5種類あります。そのすべてに署名と捺印をしなければならないことは、お客さまにとってストレスを感じやすいポイントです。電子署名であれば複数書面に一発で署名できます。さらに、署名をするために不動産会社へ行く、署名済みの契約書を保管する、といった面倒も省けます」
加えて、電子契約は紙での契約と比べてセキュリティレベルが高まることも大きなメリットだと小林氏は言う。「電子契約の場合、偽装は実印より難しいと言っていいでしょう。電子契約書面は専用のソフトで開かれるたびに改ざんされていないかチェックが入る仕組みになっています。そのチェックには国の認定機関にしか発行できないタイムスタンプという技術が導入されています」
では、なぜ電子契約導入が進まないのか?小林氏によると、その背景には不動産業界全体がまだ変化に対応できていないことがあるのだという。
「不動産業界は法律でルールが厳しく決まっており、長らく続けてきたやり方を変えることに、不安を感じる人は多いです。加えて、紙での契約を前提として構築された業務フローの変更にも時間がかかります。『電子契約を導入したいけどすぐには難しい』と悩んでいる事業者も多いです」
どうすれば不動産取引の電子契約は普及するのか。結局のところ、顧客からの要望がさらに高まることによる影響力が大きいのだと言う。
電子契約が当たり前になる未来を実現するため、デジタルガレージは不動産DXプラットフォーム「Musubell」を提供し、不動産業者の電子契約導入をサポートしている。
Musubellは不動産事業者のために開発されたSaaSサービスで、不動産取引のあらゆる業務を一元管理するためのプラットフォームだ。不動産業者はMusubellの導入により電子契約の締結が可能になるだけでなく、契約書類の自動生成、締結済み書類の保存など販売業務のDXを実現できる。
顧客からすると、電子契約が可能になることの他に、Web上に「マイページ」ができるという利便性が大きい。マイページでは、これまでバラバラだった書面データが集約され、契約書のデータ、確定申告に必要な証明書、手付金等保証書などあらゆる情報を一括で管理できる。さらなる機能拡充もどんどん実装されるのだと小林氏は言う。
「お客さまからすると不動産購入は、新しい生活をはじめるうえでの入口でしかありません。住み始めた家の管理ができる機能も実装できないかと検討をしているところです。引き続き、お客さまの不動産体験を一貫してサポートしていければと思っています」
これから先、不動産取引契約の電子化は進むのか。未来の見通しについても聞いた。
「電子契約はこれから2〜3年で爆発的に普及し、すぐに当たり前になると考えています。普段の買い物で現金が電子マネーに置き換わりつつあるのと同じようなイメージです。さらに、数年後は紙と電子の立場が逆転し、どうしても事情のある人が『すみません紙で契約してもいいですか?』と聞くような世界になるかもしれません」
さらに、不動産取引契約の電子化が進むと、世の中の常識が書き換わるかもしれない。
「これまで、不動産購入を検討する方は、契約のために現地や不動産会社に行くことが当たり前でした。電子契約が当たり前になると、どこかへわざわざ行かずとも自宅で不動産購入ができるようになります。その結果、地方の方が都心の不動産を購入するといった遠隔での売買が頻繁になるはずです。日本中の不動産の流通性が一気に高まるのではないでしょうか」
既存のやり方から別のやり方に変えることにはコストがかかる。それゆえ未知の領域に対して、漠然とした不安をもつこともよくわかる。ただ、少しでも顧客の購入体験が向上するならば、挑戦しない手はないだろう。業界の電子契約をサポートすることは、未来の新しいコンテクストを生み出すことにつながると、デジタルガレージの小林氏は信じている。