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デジタルアートが高値で取引されるなど、かつては投資対象として大きな注目を集めたNFT。今、その価値が「マーケティング」の側面から見直されつつある。言葉が先行し、技術者以外には「よくわからない」と言われがちなNFTを、企業はどのようにマーケティングに活かせるのだろうか。株式会社デジタルガレージ マーケティングテクノロジーカンパニー事業戦略室 / web3事業開発部 エグゼクティブプロデューサー・片桐隆信氏に話を聞いた。
株式会社デジタルガレージ マーケティングテクノロジーカンパニー事業戦略室 / web3事業開発部 エグゼクティブプロデューサー
片桐 隆信
音楽専門商社にて9年間、バイヤー・セールスを担当し、広告会社へ転職。OOHを中心にクリエイティブ・デジタル領域を担当。資生堂・大塚製薬・ANA・PARCO含めナショナルクライアントセールスを担当する。2021年4月、株式会社デジタルガレージへ入社。クリエイティブ・新規技術(web3・AIなど)を使ったナショナルクライアントマーケット開発を務める。
株式会社デジタルガレージ マーケティングテクノロジーカンパニーは2023年11月11日、SHIBUYA PARCOで開催されたe-sportsのイベントにて、J.フロント リテイリング株式会社が来場者向けに実施したNFTに関するアンケート&NFTの配布をサポート。アンケート回答者の70%はNFTという言葉自体を知らないという結果だったが、一方で85%以上がe-sportsチームのNFTが販売された場合「購入したい」と回答した。片桐氏はこの結果を興味深いと語る。
「『無料なら欲しい』ではなく、『購入したい』と考えている人が多いことは大きな発見でした。e-sportsに限らずファンマーケティングをおこなう企業は、グッズ販売と合わせてNFTの販売をおこなうことで、多くのファンに喜んでもらえると予想されます。さらにそのNFTに、特別な体験ができる『チケット』としての役割を持たせれば、ユーザーを次のアクションへ導くことも可能です」
日本では馴染みのないNFTを活用したマーケティングだが、すでに海外では多くの企業が着手しており、とくにadidas、NIKE、PUMAといったスポーツ系のアパレルブランドは早くから取り組む。たとえばadidasは、複数のNFTブランドと協業し、ブランド初となるNFTコレクション「Into The Metaverse」を立ち上げた。
NFTのオーナーは、adidasが提供するイベントへ参加できたり、NFTゲーム「The Sandbox」やその他プラットフォームで使用できる「バーチャルウェアラブル」を手に入れられる。また、特定のNFTを購入することで、NFTの所有者しか入れない特別なコミュニティへの参加もできる。世界市場の動きからは別の傾向もわかると片桐氏は言う。
「興味深いのはデジタルネイティブと呼ばれるような若い世代向けのブランドだけでなく、GUCCI、YVES SAINT LAURENT、GIVENCHYといったハイブランドもNFTを始めていることです。最先端さをブランディングしたい狙いがある一方、暗号資産を持っている富裕層に対するマーケティング的な意味合いが強いと考えています。
いずれにしろ、NFTを購入する人はコアなファンになりうる層です。普通に買い物もできるのに、わざわざ複雑な手続きをしてでもブランドと新しい接点を持ちたい人は、それだけ熱量が高いはずです。そのような人たちを囲い込みたいという狙いも大きいのかもしれません」
グローバルブランドがマーケティングに組み込むNFT。具体的にはどのように活用するのか、実際に企業のNFT活用をサポートする片桐氏に解説してもらった。
「NFTマーケティングには『配る』『活用』『CRM』の3つのフェーズがあります。まず『配る』とは、イベント来場、SNSフォロー、ECでの商品購入などユーザーとの接点が生まれた際にNFTを渡すことです。NFTの配布はそれ自体にユーザーを惹きつける魅力があり、特典にすることで販促効果が見込めます。ただ、マーケティング戦略全体で考えるとまだ入り口にすぎません。
次のフェーズは『活用』です。ユーザーが所有するNFTを起点とした新しい体験の提供をすwiredする段階です。NFTを特別な場所に入るためのチケットにしたり、NFTオーナーしか参加できないコミュニティをつくったりと、さまざまな打ち手が考えられます。各ユーザーの参加度合いによって、会員のランクが上がるのと同じように、NFTが進化する仕組みにすれば、アクティブなファンを増やすことにもつながります。
実際にデジタルガレージグループでは書籍販売のためのマーケティング施策としてNFTを活用しました。書籍購入者やイベント参加者を対象にNFTを配布し、その後、NFT保有者しか入れないイベントの開催やNFT保有者を中心としたコミュニティづくりを行ったのです。その結果、書籍の販促に効果があったことに加え、約1000名の熱量の高いファンの集まるコミュニティも構築できました。
NFTのマーケティング活用には段階がある(図:デジタルガレージ作成)
最後のフェーズは『CRM』です。自社CRMとNFTを連携させ、LTV向上に寄与する施策の設計が可能になる段階を指します。たとえば、株式会社J-WAVEが提供するアプリは、1ヶ月で50時間以上ラジオを聞いたユーザーに特別なNFTを配布しました。
J-WAVEアプリはradikoと連動することにより、誰がどんな番組を聞いているのかを可視化できるようになりました。J-WAVEからすると、ユーザーの中で特に熱量の高い人を把握できます。さらに、会員登録時に取得したメールアドレスと掛け合わせることで、性別や年代などの情報もユーザーアカウントに紐付けられ、より精度の高い属性把握が可能になるのです。その結果、効果的な広告のターゲットやタイミングがわかります。もしユーザーが、別のNFTを持っている場合、その内容から、さらに詳細なユーザー分析も可能です。月間50時間以上J-WAVEを聞いているNFTホールダーには番組作りや特別なイベントに招待されるなどの特別な特典(ユーティリティー)が生まれていきそうです」
NFTの具体的な活用方法がわかっても、いざ実装となると難しい。何から手をつければいいかわからず、リソースを割けないマーケティング担当者も多いことだろう。まずは、難しく考えず、既存のマーケティング施策に追加をするところから始めればいいのだと片桐氏は言う。
「まずは販促物的にNFTを使うことがおすすめです。ユーザーに高頻度でアプリを使ってもらったり、お店に来てもらったりするために、特典としてNFTを配布するところから始めるのです。最終的にはCRMまで考えて仕組みを整えられるとよいですが、最初からシステム構築を目指す必要はありません。今取り組んでいるマーケティング施策のアップデートから始めるとよいでしょう」
現状ではまだ、NFTのマーケティング活用が実装まで進んでいる例は少ない。とくに日本は世界に比べて遅れている。それでも、片桐氏によると数年以内に「いつのまにか活用されている」世界になるとのことだ。
「例えば、NFC(近距離無線通信)の技術は交通系ICに実装され、あらゆるシーンで使われています。しかし、使っている人はNFCという名前を知りません。同じようにNFTも、よく使うサービスに当たり前のように組み込まれている状態になるのではないでしょうか。
日本国内でも大手通信業者のdocomo、KDDIさんなどが独自のwalletを出してきています。来年には『EXPO 2025 大阪・関西万博』でNFTチケットが世界に先駆けて導入されるなど、個人のスマートフォンの中に気付かないうちにサービスとして利用している環境・体制は整いつつあります」
そもそも、NFT自体はこれからどこに向かうのか、片桐氏に未来予想を聞いた。
「私は以前、音楽業界で働いていていました。個人的には、今のNFTはジャパニーズヒップホップの黎明期と非常に似ていると感じています。音楽好きのコアなファンが、渋谷のレコード屋に集まって、『俺たちだけが知ってるんだぜ』と言っているのと同じ空気感をNFTにも感じるのです。
若者を中心にポジティブなイメージが広がりつつあり、特定の界隈では盛り上がりを見せているNFTですが、だからといって、web2がすべてweb3に置き換わるような大きな出来事が起こるとは考えていません。ヒップホップと同様、NFTはあくまでも一つのジャンルとして存在し、既存のフォーマットの上で、生活の一部に取り入れられるようになると思っているのです。各種プラットフォーマーもweb3にガラッと移行するというよりは、web2とweb3のそれぞれのよいところを取り入れた、いわばweb2.5のような世界を構築するのではと考えています」
デジタルガレージグループでは、NFTを活用したマーケティングのサポートをおこなっている。「配布」「活用」「CRM」まで幅広く支援をしており、さらにその手前の、どのようにNFTを事業に活用するのかの戦略立案からサポートしている。
すでにいくつもの事例があり、なかでも渋谷区、J.フロント リテイリング株式会社と一緒に取り組んだ「SIW SHIBUYA NFT HUNTING」はダイナミックな取り組みの一つだ。SIW(SOCIAL INOVATION WEEK)期間中、渋谷の街の5ヶ所でNFTを配布する「NFT HUNTING」を実施。4日間で412枚のNFTを配布し、5ヶ所すべてのNFTをコンプリートしたアカウント数は56にものぼった。
NFTの活用について、デジタルガレージグループがサポートできる範囲はマーケティング領域に限らない。NFTそのものの制作やNFTを使って遊べるゲームの制作など、具体的なソリューションの提供が可能だ。加えて、生み出したNFTの管理や取引のサポートも手がける。NFTを使って何かしたいと考える企業の戦略立案から実装、その先の管理までを一貫して伴走することが可能だ。
最後に、片桐氏にこれからデジタルガレージグループとして、NFT分野で挑戦したいことについて聞いた。
「引き続き、NFTを使った『配る』『活用』『CRM』のサポートに力を入れる予定です。特に、NFTを起点とした、ユーザーの定性的な情報や行動履歴の取得は、他のマーケティング手法では真似できません。より精度の高い顧客分析を実行するためにも、NFTを普及させることが必要で、同じ考えをもつ企業様と連携しながら進めたいです」
「NFTに興味を持ち、NFTをきっかけに商品やサービスの購入を決めるユーザーは世界中にたくさん存在します。そのような方々に向けて、自社のブランドを世界にアピールするチャンスが今、訪れているのだと思います。NFTはグローバル市場の獲得を含め、大きな可能性を秘めた新しいテクノロジーです。興味のある企業担当者の方はぜひ一緒に、新しいチャレンジを始めましょう」