Designing
New Context
Designing
New Context
B2B、B2Cの両面から拡大を続けるEC市場。経済産業省の調査によると、2022年の日本国内のB2C ECの市場規模は前年比9.91%増、B2B-ECの市場規模は前年比12.8%増と年々拡大を見せている。その成長率に比例するように、ECを取り巻く環境や顧客の購買行動は複雑化しており、企業やブランドのマーケティング戦略とも切り離せない関係になっている。ただ単にECサイトを作っただけでは効果が出ない時代になっているのだ。
マーケティングやECの担当者として、知っておくべきことや、考えるべき課題は何か。未来のマーケティング施策として何ができるのか。株式会社DGフィナンシャルテクノロジーと株式会社システムインテグレータが共同出資で立ち上げた「株式会社DGコマース」代表取締役社長の清水 和徳氏と、システムインテグレータ社の代表取締役社長の引屋敷 智氏による対談形式でお届けする。
株式会社DGコマース 代表取締役社長
清水 和徳
大手電機メーカーを経て、システムインテグレータ社に入社。日本のEC市場が確立された2000年代は、同社にてECサイト構築事業に従事。EC市場が多様化の様相を呈する2010年以降は、DGフィナンシャルテクノロジー、ナビプラス、スクデット等、デジタルガレージグループのEC関連事業を歴任し、様々な角度からECビジネス成長をサポートし続けている。
株式会社システムインテグレータ 代表取締役社長 CEO
引屋敷 智
青山学院大学法学部卒業後、住商情報システム株式会社(現・SCSK株式会社)に入社。2000年にSumitronics Asia Holding Pte Ltdに入社した後、2002年にシステムインテグレータ社取締役に就任。2022年同社代表取締役社長に。住商情報システムでは、「ProActive」の販売、システムインテグレータ社取締役就任後はWeb-ERP「GRANDIT」の立ち上げの企画、営業統括の立場でEC事業の拡大などに従事。
清水:新会社「株式会社DGコマース」が生まれた背景には、システムインテグレータ社とDGグループの双方にとって、さらなる価値提供のために必要な領域を、補完し合う狙いがありました。
引屋敷:システムインテグレータは、国内でもっとも歴史のあるECシステム開発事業を営んでおり、大規模なお客さまの複雑な要件を実現することのできる業務ノウハウと技術力を持っています。一方で、システム開発にリソースを集中させてきたことで、一般的な「売るための努力」にウェイトを置いてきませんでした。そのため、マーケティング活動や市場に合わせた商品開発にはやや苦手意識をもっていたのです。
同領域を成長させるべく人材育成も検討しましたが、今の市場に追いつくには少なくとも2〜3年必要で、現実的ではありませんでした。自社に足りない要素を洗い出し、多くの企業に相談をするなかで、DGグループから「うちならすべて補えます」と言われたことで、協業の検討を始めました。
清水:逆に、DGグループとしては、Eコマース領域におけるシステム構築力のさらなる拡充に課題感がありました。システムインテグレータ社は、ECサイト構築に関する国内有数の豊富な実績と知見を有する業界屈指の企業です。我々にとっても、不足している領域を補完していただける、最高のパートナーでした。
引屋敷:新会社設立にあたってシステムインテグレータからは、日本初のECサイト構築パッケージ「SI Web Shopping」を提供しています。EC年商数十億円以上を目指す中規模EC事業者、あるいはそれ以上を目指す大規模EC事業者から採用いただいているECサイト構築パッケージで、カスタマイズ性が高く、物販以外のビジネスにおいてもコアとして活用いただけます。
清水:DGグループからは、商品やサービスの認知から集客、利用促進から顧客満足までを幅広くカバーするマーケティング支援や、多彩な決済手段と最高レベルのセキュリティを兼ね備えた決済ソリューションのノウハウを提供します。それにより、マーケティングから決済まで一気通貫でのデータ分析・コンサルティングが可能になり、クライアントが事業拡大を実現させるための全体的な支援が可能になります。
清水:そもそも、EC市場は全体的に拡大傾向にあります。特に非物販と呼ばれる領域での伸びが大きく、経済産業省が発表した「令和4年度 電子商取引に関する市場調査」によると、2021年から2022年の1年間で、サービス系分野におけるB2C EC市場規模は32.43%も伸びたそうです。消費者の方々のデジタルを介した消費行動が積極的に行われるようになっており、これまでDXを進めていなかった事業者の方々がECに力を入れるようになったと感じています。
例えば外食産業に目を向けると、新型コロナウイルス感染症の流行で、外食そのものが下火になっていたなかで、出前の需要が一気に伸びました。また、ECとは少しズレますが、大手といわれる外食チェーンでは軒並みモバイルオーダーを導入しています。事業者、消費者の双方が、デジタル化により享受できる便利さに気づき、積極的に活用し始めているのが今なのです。
引屋敷:外食産業に限らず、新型コロナウイルス感染症は、EC市場拡大に大きな影響を与えたと感じています。働き手が少なくなってきている背景もあるなか、多くの店舗型ビジネスがシステム化による効率性アップを採用し、一気にあらゆるツールの導入が進みました。
ただ一方で、システム開発会社としての立場で言えば、お客さまのニーズが微妙に変わってきていると感じます。システムインテグレータが創業された1995年ごろは、ネットバブルと呼ばれる時代で、とにかくカートを作って商品を置いておくことが求められていました。
しかし今、カートがあること自体はさほど重要でなくなってきています。今、クライアントにとって大きな課題になっているのは集客です。ECサイトそのものの構築よりも、集客の仕掛けを作れることの方が断然重要になってきています。
引屋敷:ここ数年で事業者、消費者双方を取り巻くEC環境は大きく変わりました。同じようにこれからも、行動様式の変化や技術革新に伴って、変化が起こり続けるでしょう。例えば、AIによる精度の高いレコメンドです。それぞれの消費者のこれまでの購入履歴や閲覧サイトをもとに「何を探しているのか」「どのようなデザインが好ましいのか」をAIが学習し、提案をしてくれる世界が考えられます。私のような面倒くさがりにとって、ありがたい世界です。
また、日常生活のなかに自然と買い物が組み込まれている世界になるのではとも予想しています。ECの普及で日々の買い物は圧倒的に便利になりましたが、それでも、毎度自分のほしいモノが売っているECサイトやショッピングモールにアクセスする手間は必要です。Instagramで買い物ができるようになったように、消費者が日常生活を送るなか、その流れで買い物のできるシステムが生まれるのではないでしょうか。
清水:私も、いずれはECサイトにアクセスせずとも買い物ができるような世界になるのではと予想しています。そのような世界を実現させるデバイスとして、今だとスマホですが、まったく新しいウェアラブルデバイスが出現し、さらに自然に買い物ができる世界になるかもしれません。
引屋敷:一方で、商品を探すこと自体が好きで、買い物そのものに楽しみを感じている方も一定数存在します。その方々は日常生活のなかで自動的にレコメンドされることがないよう、チェックをつけられる機能があるといいでしょう。高速道路のETCゲートと同じです。現金で支払うレーンが残されているように、多様な価値観や生活スタイルがあることを前提とし、それぞれの人が自分に合ったライフスタイルを選べるようになるといいと思います。
事業者、消費者双方のECへの意識が変わってきているなか、ビジネスパーソンはこれまでと同じやり方を続けるのでは通用しなくなってきています。必要なのは「今より便利な暮らしを世の中に提案する姿勢」だと考えています。
「少子高齢化の社会で求められるサービスはなんだろうか」「ペットを飼う人が増えてきているなか、ECやデジタルの領域からできるビジネスはないか」と考え続けることが肝要です。とくにEC事業に携わるマーケティング担当者の場合、つい「買ってもらうには」と考えがちです。しかしそれだけでは、市場自体を拡大させるEC化率アップにつながらず、思うような事業拡大もできないと思います。
清水:これからの社会のあり方について、事業者側の視点で考えると、一連のマーチャンダイズがすべて自動化され、人の介在する領域がどんどん減っていくことが考えられます。まさに今、DGグループでも最新のテクノロジーを駆使したデータ解析技術の開発を進めており、これまで取れなかったところからデータを集めるシステムを開発しているところです。「このような新商品を開発すると、このような属性の人たちに刺さりやすい」といった予測が立てられるテクノロジーの実装を目指しています。
日本にECが誕生して30年が経ち、カートの仕組み自体はこれから大きく変わらないでしょう。変わるのはその周辺領域で、お客さまの利益を伸ばすためのテクノロジー開発はDGグループ全体で担うべき役割だと考えています。
引屋敷:カートの仕組みも変わらないと思いますし、モノが売れる方程式自体もそこまで大きくは変わらないと考えています。だからこそ、EC事業者からすると集客力を高めることが重要になり、さらに言えば、消費者に向けて魅力的な体験を提供することが求められるようになってくると思います。アクロバティックな施策は必要なく、すでに分かっている法則に従って、シンプルでベーシックな「やるべきこと」に取り組み続けられる会社が生き残るのではないでしょうか。
清水:DGコマースが生み出す付加価値は、クライアントから機能要件を上げてもらって、構築した製品を納める、その後のシステム運用保守をお預かりする、という範囲に留まりません。クライアントが扱っている商品や、メインターゲットのヒアリングから始め、最適なシステム仕様の提案をさせていただきます。
場合によっては、プロモーションや商品開発、決済ソリューションの戦略についても合わせて、ご提案させていただきます。本来の目的である事業拡大を見据え、今お客さまに必要なモノは何かという視点から、ECサイト構築の周辺領域まで網羅した提案をできるところが、新会社の特徴です。必ずしもECサイト構築ありきで提案をするつもりはなく、周辺領域を支援するなかで、パートナーとして認めてもらえれば、自ずとEC構築のご依頼もいただけるのかなととらえています。
事業売上の拡大を目指すすべてのEC事業者にとって、よきパートナーとなれるよう、両社の力を合わせ、新しい価値をつくっていければと思います。